韓国の結婚式

四苦八苦の末、ようやく辿り着いた「サチョンドン聖堂」は、「サチャンドン聖堂」よりは随分立派で大きかった。参列する人々の服装を見ると、日本における結婚式よりはラフな感じだった。年配のオジさんはラクダ色の野暮ったい背広姿。筆者は、普段ならこんな旅行に持ってこない革の靴やら、化粧品やら、一応みぼらしく見えなさそうな服装を準備してきたのだけど、やはり荷物を少なくしたいので「必要最小限」の格好でしかない。が、そんな格好でもあまり引け目を感じなくても良さそうな雰囲気なので助かった。てか、アナタ(つまり私)、ちょっと前に日本であった友人の結婚式にも普段着みたいなカッコで出てただろ?(少々引け目)

そんな事はともかく、友人本人と少し話ができるという事なので早めに行ったのだが、入り口前はごった返していて何がなんだかよくわからない。以前お会いした友人の両親がいらっしゃったので、挨拶をするが、何分向こうも忙しいので、彼女は何処にいるか訊く間もなく、次の人への挨拶に移ってしまった。仕方なく、周りをきょろきょろ見渡すと、ご祝儀提出所らしき机が両脇に。

前日に会った女子大生ペンパルに世話を焼かれて韓国式ご祝儀袋はきっちり買ってあり、中身も入れて準備済みだった。こちらのご祝儀袋はきらびやかな水引や飾りはなく、白い封筒に金文字で「祝結婚」と書かれたもの。自分の名前は表の右隅に適当に書けば良いという。日本だと下手でも何でも毛筆で書かなきゃならん、とウェブサイト上ののマナー講座に言われたので(こういう形式ばかりでどうでも良いようなくだらん「マナー」を調べるのにインターネットはとっても便利♪)、日本の友人の結婚式に参列するために、仕方なく、ぶるぶる震える手で十年振りくらいにお習字をしたのだが、韓国ではボールペンでも何でも良いという。しかも中身の相場が随分安く、ピン札である必要もないという。誠に合理的である!

さて、祝儀受け取り係のオジさん、筆者の韓国語が怪しいのを見て取ると、花嫁のカナダ時代の友人だと咄嗟にわかってくれた。彼女は何処かと訊ねるとすぐ脇の扉へ案内してくれた。なんだかとっても狭い部屋に、久し振りに会う友人がぽつんと座っている。仮装も化粧も済んで手持ち無沙汰な時間のようだった。それにしても、化粧のせいもあるだろうが、随分綺麗だぞ???場所が韓国なだけに、結婚前に整形でもして、とっても綺麗になっていたらどうしよう?と妙な心配をしていたのだが、果たしてそれはメイクの腕によるものか、手術の腕によるものかははっきりわからなかった…。そんな事どうでも良いか。

彼女とあまり突っ込んだ話もできないうちに、友人知人がわんさかこの部屋を訪ねてきた。なんだか出るに出られなくなる。そのうち、妹さんもやってきた。以前会った時はまだ高校生で、ちょっと太めの決して美人とは言えない子だったのに、な、なんか綺麗な姉さんになってるぞ!!!「彼女こそ整形を…」と、場所が韓国なだけにイラン事を考えてしまうのであった。

ところで、祝儀受け渡し所では妙な物を貰っていた。その名も「食事券」(と、漢字で書いてある。わかり易い…)。オジさんによれば、只今がその食事の時間であるという。え!ご飯出るの!しかも式の前に?遅めの朝御飯、食べなくても良かったじゃん…。この辺の細かいスケジュールを訊きたかったのに、友人は一時から一時間くらい、と、もの凄く大雑把な事しか教えてくれなかったのだ…。もし相手が韓国人なら、言わずともわかる普通の事なのだろうか。

さて、食事があるという地下へ降りて行くと、なんだかもの凄い人だかり。長机が三列並べられ、真ん中の列に大皿に盛られた料理がわんさか並ぶ。加えて奥の壁沿いにもわんさか。プラスチックの皿にそれぞれが好きな物を取って来る。両端の列の机で食べるようになっていて、机の上には無造作に水やビール、焼酎などの瓶が置かれ、各自で紙コップに注ぐ。人々は、食物を黙々と集め、食する場所を見つけてさまよい、椅子を確保するとやはり黙々と食物を食べ始める。テーブルに敷かれているのは紙。食べこぼしで既に相当汚くなっている。どうもこれまでに日本で見てきた結婚式とは程遠い雰囲気だ…。が、思わぬ所でありつけた韓国料理。食わずにいられるものか。どれもこれも美味そうである。取り敢えずは有り難く戴いた。

肝心の式の方は。

教会の式なので、大体は何処かで見た事あるような流れで進んで行ったが、なんだか妙だったのは、途中で人々が周りの人に向かって頭を下げて挨拶をしだした事である。韓国特有の習慣なのか、カトリック教徒特有の習慣なのか…。

も一つ妙だったのは、新郎新婦退場の後、再び二人がバージンロードを逆戻りして祭壇の方へ行ってしまった事である。今までの経験では、教会の出入り口で新郎新婦とご両親が参列者を送る場面になったのになァ…。

新郎新婦を囲んで祭壇の前で写真を撮ったりしている人がおり、人々はなかなか教会から出て行かない。はてさて、これで式次第は全て済んだのやらどうなのやら。と、そこへ受付にいた親切なオジさんが近寄ってきた。流暢な英語で、これから外に出て集合写真を撮るのだ、と説明をしてくれた。そして、あなたにはこの場の流れを説明してくれる人が必要だろう、とおっしゃる。

て言うかオジさん、今アナタが説明してくれましたよ?

しかし、オジさんは続ける。

英語のとっても上手い人がいるから紹介しよう。

イヤ、オジさんも十分上手いから。

でもって、彼が連れてきたのは、なんと、ニュージーランド留学から帰ってきたばかりの自分の息子。オジさんは友人の叔父さん、連れて来られたのは友人の従兄弟だ。

さあ、何でも訊きなさい、とオジさんは言うけど、大体の事は訊いてしまったし、息子の方も何のために連れて来られたのかよく訳がわかっていなさそう。オジさん、息子の自慢をしたかっただけじゃァ…。が、この息子さん、なかなか良くできた子で、従姉妹のお姉ちゃんよりも年上のネエちゃんの面倒をよく見てくれた。

ところで、友人に「結婚式来る?」とお誘いを受けた時、韓国式結婚式が見られる!と喜んだのだが、「自分はキリスト教徒だから式は教会で行うのだ」と彼女は書いてきた。という訳で、韓国伝統結婚式はないものと思い込んでいたのだが、親切な従兄弟曰く、写真撮影の後に先程の食堂で伝統的なセレモニーが行われるという。嬉しい誤算!って言うか、こういう細々した予定を予め聞かせて欲しかったんだけどなァ…ホントに。この日は予定があってソウルに戻る事になっていたので、あまりゆっくりもできない。が、一時間程度なら何とかなる。従兄弟くんと一緒に食堂へ入って行った。

食堂には先程の料理がまだ並んでおり、式の前は忙しくて食べている間がなかった近しい親戚達が箸を動かしている。食事は先程たくさん戴いたので、お茶の時間と決め込んで、クッキーや餅などデザート系に走る。すると別の従兄弟がやって来て、ご飯は食べないのか、と世話を焼いてくれる。さっき食べたから、今はお茶の時間なの、と言うと、それでも飲み物を持って来ようかとか、キムチを持って来ようか、と気を遣いまくってくれる。実に良くできた息子さん達である。それにしてもクッキーにキムチ…。韓国的にはきっと普通の組み合わせなのだろう…。因みに、こちらの従兄弟はまだ小学生。なのに随分普通に英語を話す。韓国では近年、小学校から英語教育が義務付けられるようになったそうだ。その上、どうもこの家系は教育熱心なようで、この子も塾で更に英会話の特訓をしているため、小学生にしては会話能力が高いらしい。

さて、暫くすると、新郎新婦が派手な伝統韓服に身を包んで現れた。が、仰々しいアナウンスもなく、二人は奥にある一段高いステージに静かにやって来ただけ。従兄弟君が前の方へ行ってみよう、と薦めてくれたので、食べかけの皿を持って移動する。この時には大半の人は帰ってしまっており、テーブルはがら空きだった。式の前のあの大量の人々は一体なんだったのだろう?食事券とは名ばかりで、回収する場所もなかったので、ともすれば結婚式乞食が紛れ込まないとは言い切れない。

伝統的な儀式は、二人が現れた時と同じように、周りの人に構う事なく、静かに始まった。ステージと言っても、あまりきらびやかでもない、公民館の一室のような場所。背面には何故かキリスト生誕を物語ったアジアンな屏風が立っている。壁面には十字架、ステージ脇にはクリスマスツリーもあった…。

怪しい屏風の前に低い机があり、簡単につまめるお茶菓子のような食物が綺麗に盛られた皿が並ぶ。机を挟んで手前側に新郎新婦が座る。まずは嫁入り先のご両親が彼らの向かい側、即ち屏風の前に座る。二人は立ち上がってお辞儀をし、座っては深くお辞儀をする。続いて二人で小さな茶碗にお茶を注いでご両親に薦める。ご両親はテーブルの食物をつまみながら、彼らに何かアドバイスめいた事を話しているようだ。

続いて花婿側のおばあさん、親戚が続き、その後花嫁側親族の挨拶になる。これが延々と続く。新郎新婦はその度に立ち上がってお辞儀。花嫁の方は服装の加減か、ぽっくりのような履物でも履いているのか、立ったり座ったりがやけに大変そう。式の進行に指示を与える洋服姿の女性が、常に彼女の身体に手を添えて助けていた。

面白かったのは、ここに現れた親戚達、女性は韓服で正装しているのに、男性は背広姿だった事だ。そう言えば日本でも女性は留袖を着るけれど、男性は洋装の人が多いな…。なんだか妙なアジアの風習である。

それにしても、この間、見物人というものは殆どいなかった。教会の式が人々への結婚披露の場だったのに対し、こちらの儀式は本人と親戚の間の挨拶のためのもの。そして、若い二人は式の進行を知っているはずもなく、常に洋服姿の女性が指示を出している。また、業務用カメラを持ったカメラマンがこれらの様子を収めるべく、ずっと彼らに張り付いていた。なんだか荘厳な儀式とは程遠いなァ。

従兄弟くんにとってもこういう儀式を見るのは初めてだったそうだ。後でソウルの友人の幾人かに訊いたら、映画やテレビでしか見た事はないと言っていた。見物人がいない事からもわかるように、近しい親戚の式でもなければなかなか見られる機会はないようだ。

親戚への挨拶が済んだ後、またまた妙な事が始まった。新婦が腕に掛けていた白くて長い布切れを二人で持って、そこに新郎のご両親が栗をひと塊投げ入れる。入った数が生まれる子供の数なのだとか。また、食物を口移ししたり、花婿が花嫁をおんぶして机の周りを回ったり、遊んでいるとしか思えないような行事が続く。う~む。遊び心がある、と好意的に解釈しておこうか。

ところで、彼女は式の直後、新婚旅行先のタイへ向かったはずなのだが、実はこの日がスマトラ沖地震があった日だった。災害の起こった後なので、被害には遭っていないだろうが、訪問予定地が被災地だったら気の毒だ。この際日本の方がマシだったか…。しかし、一週間ほど経って、彼女から「来てくれて有り難う」とメールが届いた。取り敢えず楽しく過ごしてきたようだ。良かった良かった。