韓国

第5節 釜山マジックフェスティバル

韓国人のおもてなし

今回の釜山へ行ったのは国際マジックフェスティバルに出演するためだった。近くてコストが安いためか、筆者の他にも日本人ゲストが何名か招待されていた。日本語通訳が各ゲストにほぼ1人ずつ付いていたし、暇な時間は日本人同士で固まっていたから、会期中、殆ど日本語会話でOKだった。筆者の場合、こういう場所でも仲間とはぐれて1人きりになってしまうことが多いのだが(まぁ、それはそれで構わないのだが)、今回は近い世代の女性や気配り上手の先輩が、なにかしら夜のイベントに誘ってくれた。

ある晩も、地元の韓国人が夕食に誘ってくれたから、一緒にいかない?と声をかけられ、その日の大仕事を終えた午後11時近くになって刺身を食べに繰り出すこととなった。車で迎えに来てくれたその人は、なんと、3年前に後輩Nと共にソウルへ行った時、我々に何くれとなく世話を焼きながら「キミたち韓国人顔だねー」とほざいたコメディアンだった!!!彼はもともと釜山の出身なのだそうだ。そして、彼は今回も何くれとなく我々全員に世話を焼きまくり、夜を徹して散々連れまわしてくださった。敢えて断っておくが、彼は決して悪い人ではない。

最初に連れて行かれたのは、夜半だと言うのに未だ大勢の人出がある海岸近く。道路のど真ん中に車を止め、店のオバさんにキーを渡す。後ろから車が来ているのに!いいのか?高級料理店でもないのに、なんとも不思議なシステムだ。

なんとなくひなびた建物の中にあったその店は、ズバリ、韓国語で「ホントに良い刺身店」と書いてあった。これが店の名前である。テレビ東京の朝の番組が取材に来たことがあるらしい(と、入り口にデカデカと書き記されていた)。

店の奥へ通されるや否や、次々と小皿が並べられた。「これはみ~んなタダ!日本では1個1個払うんでしょ?イヤだね!」と、コメディアンはこの店にいる間に20回くらいは言っただろうか!韓国の食堂では、キムチ等の小皿料理は基本的には無料で付いて来る。よくもコレで採算が合うものだと思うのだが、この店で実際に払ったのは刺身代だけだったとか。

因みに、韓国の慣習に従って、この晩の支払いは全てホストである彼1人でしてくれたのだが(初めから「僕が払うからね!!!」と高らかに宣言)、こういう恩のある韓国人(+その弟子や後輩)が大挙して日本に押し寄せると、そのツケが回ってきて大変なのだとか。と同席していた日本の方がぼやいていた。そりゃね、日本の方が物価が高いし。

このコメディアン、親類に日本語を話す人がいるとかで、簡単な日本語はわかるらしいが、会話が出来るレベルでもないようだった。英語の方も…ちょっと怪しい。が、我々の会話は主に英語でなされる。対する日本勢もあまり英語が達者ではなく、似たようなレベル同士でそれとな~く会話は弾んでいたようである。このグループの中では割合すんなり英会話ができる筆者ともう1人の女性も、ヘンに流暢に会話に割り込んでは場の流れを乱す、と読んで、英会話に関しては、極力静観を決め込んだ。

で、このコメディアン、いわずもがな割合気が利く方で(韓国の男性は日本の男性に比べると、客人に対して結構気を使ってくれる)「僕は日本語はよくわからないけど、遠慮せずに日本語で会話してくれて良いから!」と進言する。日本人の方はそれを聞くまでもなく、遠慮もへったくれもなく、日本語会話を炸裂。しかし、さすがはコメディアン、わからなくてもなんでも、とにかく会話に入ってこようと、しょっちゅう茶々を入れてくる!スゴいバイタリティだ!

さて、筆者としては(多分他の人も)今夜の晩餐はこの刺身屋さんだけ、と思っていたのだが、彼の頭の中では既にしっかりプランが練られていた。「お帰りは明け方」コースである。

次に連れて行かれたのは、有名な観光地、ヘウンデ・ビーチのそばのパラダイスホテル地下にあるというピアノバー。ところが、これは彼の勘違いで、実際はその隣のマリオットホテルの方だった。で、ホテルの駐車場に入っていくも、なんだか車がフラフラ揺れて、運転が怪しい。ていうか、彼は刺身屋で酒を飲んでいたぞ!「そういえば飲んでたじゃん!」と言っても、「へっへっへっ~~~」と本人は至ってお気楽モードである。いいのか!?(韓国ではどうか知らないが、泥酔状態でなければ飲酒運転OKという国は結構あるようだ)

ここでカクテルを1杯ずつご馳走になる。(コメディアンはロー・アルコール飲料。それでもまだアルコールを入れるか?)フルーツの盛り合わせも頼んだのだが、なんだか、韓国のおつまみ系って、ゴージャスなのである!それなりの値段はするが、大きな皿にてんこ盛りのフルーツ!刺身と韓国料理で一杯になった腹には収まりきりません!!!

次は、腹ごなし、なのかナンなのか、歩いてすぐのビーチに連れて行かれる。夜中過ぎだというのに海岸は凄い人出だ!少し前まで夜間外出禁止令の出ていた国とは思えないほど、韓国人は宵っ張りの夜遊び好き。しかし、この頃から一番年配の方が疲れたようなご様子を見せ始めた。我々女性陣はサンダルを脱いで海水に足を浸し、結構この状況を楽しんでいたが。また、もうひと回り上の男性の先輩が、矢庭にトランプを取り出して、女子大生を相手にストリートマジックを始める!!!(けしかけたのはコメディアンだが)すると、あっという間に黒山の人だかり!

「娯楽がない国ナンだわ」と、お疲れのご様子の大先輩はおっしゃる。腹立ち紛れの?愚痴なのだろうか?

さて、コメディアンの頭の中にはもう1つプランが残っていた。海岸の夜景を一望に見渡せる(ハズの)高台の喫茶店でお茶をする、というのである。疲れたご様子の大先輩に、「どうしますか?」と一応訊ねるものの、コメディアン自身は行く気満々である!韓国では年長者の意見が優遇されるため、ここで一言「帰りたい」と言えば帰れるはずなのだが、断っちゃ悪いと思ったのかナンなのか、「皆に任せるわ」と大先輩は日和って見せる。

ビーチからホテルの駐車場に戻る際、誤ってパラダイスホテルの方に入り込んでしまうという一幕も。ただただコメディアンの後に続く我々は、誰もそのことに気付かなかった!フロントでコメディアンがピアノバーのレシートを見せて無料駐車券をせしめようとするも、なにやらひと悶着交えている様子。そりゃそうだわな、そのピアノバー、このホテルには存在しないんだもの(^_^;)

さて、車で丘をぐんぐん登ってお洒落な喫茶店に着くも、木が生い茂っているためか、夜だからなのか、イマイチ眺望は望めず。(因みにコーヒーも余り美味しくない。韓国のコーヒーは何故か激甘仕様なので、ブラックで飲むと殊更不味い。ひょっとするとインスタントかも。喫茶店よりスタバの方が美味いのだ)そのことにエラく罪悪感を感じたのかナンなのか、コメディアン、よせばいいのに店の人にもっと景色の良い所はないのかと訊ねる。すると、ここから5分ほど車で行った所に展望台があるとのこと。お茶を飲み終わったらそこへ案内しようと思うけど、どうだろう?と一応筆者に訊いてきたものの、コメディアンの心は既に決まっている。筆者が「オジサンが疲れているからこのまま帰ったほうがいいかも」と進言しても、「たった5分行くだけだから大丈夫だよ!!」と行く気満々である。

だったら訊くなよ…(^_^;)

とにかく、彼は彼の思った通りのことをお客様に「してあげたい」のだ。これは彼ら韓国人なりの一種の親切で、それを知った上でされるがままに連れ回されるのも時に楽しくはあるのだけど、これを押し付けがましい、度を過ぎていると感じる日本人もいるワケだ。先にも述べたように「帰りたい」と強く明言すればいいのだけど、奥ゆかしい日本人はつい「悪いかな」と思って口に出せなかったりする。

少なくとも、コレは日本に於いては「おもてなし」とは呼べないわな…(^_^;)

なんだかんだで、ホテルに帰って床に就いたのは朝の4時。

んで。

翌日、フェスティバル会場で仕事をしている筆者の所に件のコメディアンがやってきて「昨日は楽しかったね!」とニコニコとおっしゃった。なんでも、彼は昼過ぎまで寝ていたとかー。

確かに、楽しくはあったです。でも、朝から仕事があった筆者にはちょっと辛かった…。

翌日の晩は、筆者は1人でのんびりサウナに行ったのだけど、一番疲れていた大先輩は、翌日も別の韓国人に連れ回され、やはり明け方近くに帰っていらっしゃったそうだ。お疲れ様でした…。

因みにダメ押ししておくが、このコメディアン、決して悪い人ではない。むしろ裏表がなくてわかりやすい善人であるとは思う。