韓国
第1節 韓国のフツーな人々

えせ韓国人ごっこ

そんなこんなで、年明け早々、韓国に出掛けた。前回から半年も空けず、生涯3度目の訪韓である。

前に書いたように特典航空券を使っての旅行だったが、当時その航空会社には、筆者の住む名古屋からの発着便がなかったために関西発着となり、その上、普通なら時間が有効に使えて嬉しいはずの早朝発、夕方着便だった。前後は関西でそれぞれ1泊、そして正規料金分の消費税を払わせられ(聞いてねぇよ!)都合1万円以上の出費を余儀なくされた。名古屋はともかく、成田発なら同等の価格で格安航空券が買えてしまいかねない。あまりお得なプランではない事は否めないのだが、極寒のソウルに9日間、筆者は大いにその滞在を楽しんだ。

普通、良い大人が1週間以上も仕事を離れ、しかも1都市のみに滞在し続け、特に観光地を訪ねる訳でもなく、観光客向けのイベントに出向く訳でもなく、ただひたすら街中をぶらぶら歩き回っているというのは世間一般常識的にはかなり異様な状況であるらしい。会う人会う人「いつ来て、いつ帰る予定なの?何処を見に行った?今後の予定は?」と訊くのだが、滞在は1週間強で、友人に会う以外は特に何の予定も立てておらず、これまでは市場をぶらぶら歩いて、それでいて買い物をするでもなく、屋台で珍しいおやつを見つけては買い食いしまくっている、という事実を話すと、一瞬相手が固まる。1度、あまりにも相手の表情がこわばったので「ヘンですかね?」と訊いてみたら、「イヤイヤ、ヘンじゃないですよ。マーケットツアーだね!」と、殊勝な事をおっしゃった。そうよ、日本に来る外人だって秋葉原や東急ハンズが好きなんだから。

ところで、韓国の景色は日本のそれと非常によく似ている。レンガ敷きの路地裏の小路や、カラフルな色使いの公園の東屋など、韓国らしさを感じさせる物もあるにはあるが、都会の真ん中では外国にいる事を実感できないほど、風景が目に馴染む。建物の端が揃っておらず雑然としてまとまりのない街並みや、人々のしぐさや顔つき、服装には殆ど違和感がない。日本の中の知らない街に来たような感覚だ。田舎の方でも、田んぼや畑の脇のちょっとした掘っ立て小屋の造りや人々の働く姿が驚くほど日本と似ている。

そんなこんなで気分が「えせ地元民」だったためか、はたまた前回作った韓国眼鏡のせいか、或いは、日本人「観光客」にしてはあまりにも垢抜けない格好をしているせいか(可能性最大)、筆者は殆ど森の中の木の葉状態。1日に1度以上は必ず、韓国人に道を訊ねられた。日本にいても人に道を訊かれる事など滅多にないというのに、何故!韓国人は無闇に道を訊ねたがる民族なのか?ソウルは大都会だけに、おのぼりさんが多いのか?それとも、日本にいる時こそ「異邦人」に見られているのか?(可能性最大)

韓国人と日本人は見掛けがよく似ているが、韓国人特有の顔つきというものもあるし(筆者はとりわけ韓国人顔という訳でもないのだが)、服の着こなしや女性のメイクの仕方など、微妙に異なる部分もある。注意深く観察すれば8割方、どちらか言い当てる事ができそうだ。

観光客がよく訪れる南大門市場(ナンデムンシジャン)では、売り手達は巧みに見分けて、日本人には日本語を投げかける。筆者も初めて韓国を訪れた時はそうされるのが常だったが、既に地元民並みにふてぶてしい様相になってしまったのか、もはやここでも、誰も日本語で話し掛けてこなくなってしまった。「これいくら?」などの短い受け答えなら俄仕込みの韓国語で会話をしても、正体がばれず、「え~っと」などという間投詞を口に出す事でようやく「日本人?」と驚かれる事になるのだ。

筆者の友人で、韓国人に間違われる事を切望している人がおり(何故?)しかしながら、彼女はいつも、日本人どころか、中国人だと思われる事が多いらしい。韓国眼鏡を作ったら韓国人に間違われるようになった、という話をしたら相当羨ましがったので、これらの話も羨ましがって聞いてくれる事であろう。因みに、筆者自身は、決して狙って韓国人のふりをしていた訳ではないのだけれど。