いつもそこにキムチ

カナダにいる時に二ヶ月ほど通った語学学校では、生徒の殆どは韓国人と日本人で占められていた。そんな訳で韓国人の知人がいくらかできたのだが、彼らといったら、二言目には「キムチ」、写真を撮る時も「キムチ」、カナダの不健康な食生活に辟易して(うん、これはわかる)、やはり二言目には「コリアンフード」。

筆者自身は、長く日本を離れていたからと言って、それほど日本食が恋しくなった事もなく、巷に溢れるインチキ寿司屋にわざわざ入ろうとは全く思わなかったし、中華系のマーケットで比較的安く手に入る、日本食材を買う事も稀だった。

しかし、彼らは違う。たとえ本国の値段の倍はしても辛ラーメンを買ってきてランチにする。日本製の海苔に胡麻油と塩をしいて韓国風に仕立て、韓国海苔巻きの「キンパッ」を作る(大量に作って日本人も含むクラスメイト全員に振舞っていた!)。果てはキムチまで作ってしまう。

この、異常なまでの韓国食に対する執着は何だ!?

当時筆者には、これは異様に映っただけだったのだが、本国で常に韓国の人々と食事を共にする事でその理由が見えてきた。彼らの食生活の殆どは韓国食で占められているのだ。

まず、チョンジュに住む友人のお宅に泊まったのだが、朝から多種多彩なおかずのオンパレード。日本でもお馴染みの白菜のキムチは勿論、その他に数種類のキムチ、春雨の炒め物、果てはプルゴギまで。これらを朝から用意していたお母さんは大変そうだったけれど、これだけしっかり食事をしていたら、一日三十食品目摂取するのは実に容易い。韓国人にとっては当たり前過ぎて別に目標にするほどの事でもなさそうだ。

そして、街中で見かける韓国食の店の多さに驚いた。家庭で食べる普通の食事が外食でもできてしまう。また、屋台やフードコートでも韓国食はあって当たり前。勿論、洋風や日本風の食事ができるレストランもあるが、何と言っても主流は韓国の家庭料理の店だ。一体、「日本食」として我々が外国人に紹介できる料理がこれほどあるだろうか、と、ふと思った。

ソウルに戻った初日、マジックショーのリハーサルがあり、その後スタッフの方達と夕飯を食べに行ったのだが、ここでも韓国ならではの焼肉。朝になっても腹がもたれる感じだったので、何か軽い物をという事で、後輩Nと一緒に外へ繰り出し、道端の露店で「キンパッ」を買った。韓国の街中では、ちょっとした食べ物を売る様々な露店を見かける。そしてどれもがそこそこ美味い。

お昼御飯は弁当を戴いたのだが、日本と同じく、ご飯と数種類のおかずが詰められた物。欧米ではまず見られない類似性に思わず嬉しくなったが、当然の事ながら、おかずは全て韓国式で、少々辛め。しかし、北米の「伝統的」ランチ、ピーナツバターのサンドイッチで昼食を取った気になるよりは余程健康的だ。

そして、夜は夜でプルゴギの鍋。更に二次会、三次会へ。三次会は夜半過ぎだというのにまたまた焼肉だ。韓国の飲食店の常として、注文した品以外にわんさかキムチの皿が並ぶ。韓国人達はこれらの野菜と肉とをバランス良くつまんでいた。古いキムチで焼肉を包んで食べると美味いんだとか、ご飯を口に含んだ後、スープの汁を流し込んで食べるのがオツなんだとか、韓国の人々は誇らしげに自国の食文化を紹介してくれた。

また、ハンジョンシク(韓定食)と呼ばれる小皿の並びまくったメニューでもてなして戴いた事もある。こういった場では「机の脚が折れるほど」皿を並べるのが礼儀らしく、その品数の多い事と言ったら!「次はこれ、次はこれ」と、好きなおかずを少しずつ、好きなだけ食べて良いのだが、とてもじゃないが全員でも食べ切れる量ではなく、場を離れる時、なんだか勿体無い、と、残ったおかずの行く末が気になってしまった。が、客が残さず平らげるほどの量しか出さないのでは、その食堂の名折れになるのだとか。

そんなこんなで韓国滞在中は韓国料理しか食べなかった。それには筆者が客人であったという事も関係していたかもしれないが、それにしても韓国人の韓国食との密着ぶりは日本における日本食へのそれとは比較にならないほど濃厚だ。彼らが外国の地であれほどキムチを恋しがっていたのにはこんな背景があったのだ、と思い当たった次第である。

ところで、この韓国旅行の直後にやはりマジック絡みでオランダへ行ったのだが、そこでまた韓国人の知人と再会する。日本人よりも団結意識の強い彼らは、常に群れ固まり、そして揃って深夜のキムチパーティーに出掛けて行った。オランダでキムチ!?なんとオランダにもキムチ工場があるという!!!韓国人のキムチパワーは侮れない!