韓国
第3節 韓ドラの嵐

ョンさぁま、好きですか?

2004年末、韓国に行って驚いた事がある。それは、会う人会う人、同じ質問をしてきた事だ。その質問とは、

「ョンさぁま、好きですか?」

う、うっぷす…

勿論、筆者は関心がないので、別に好きではない、と答え、彼の事を好きなのは主にアジュンマ(オバさん)達で、若い女性にはあまり人気がないのだ、と説明しておいた。

面白かったのは、韓国人達の「ヨン様」の発音である。アクセントは語頭の「よ」よりも「さ」の部分にあり、表題のように「ョンさぁま」と発音される事だ。ちょうど外人さんが「大阪」の事を「ぉさぁか」というのと似ている。

それにしても、本当に、会う人会う人会う人会う人…少なくとも30分以上席を共にした人には間違いなく訊ねられたのだ。思い返す事ができただけでも10人以上を数える。1週間の韓国滞在中、1日1回以上訊かれていた勘定だ。久し振りに会った友人知人、初対面のオジさんや女子大生、ハテは友人の従兄弟の小学生、銀行で5分ほど顔を合わせただけの銀行員のお姉さんにまで…。

何ゆえ彼らがそんな質問をしてきたかというと、その答えはそれを訊ねる時の彼らの表情にあった。皆一様に「あのね、ちょっと不思議に思っている事があって、それが本当かどうか、噂の出所である国から来たアナタに是非とも確認してみたいんだけどね」という顔をしていたのだ。

彼らによると、「ョンさぁま」ことペ・ヨンジュン氏は、韓国ではそれほど爆発的人気がある俳優ではないそうだ。確かに、ほんの数ヶ月前に訪れた時は、街中で彼のポスターや写真を見かける事は殆どなかった。だから、まァ、それほど有名な人ではないのかな、という予想はついていた。が、この時は、テレビでも、新聞でも、街中のポスターでも、至る所でお姿を拝見する機会があったのだ。それは彼自身の俳優活動の一環というよりも、日本でもの凄く人気があり、その事実自体がニュースになっている、といった様子だった。実際、筆者のペンパルの1人は、「そう言えば、彼の本名はなんだったっけ?」と首を傾げて考え込む始末。「ョンさぁま」の愛称のみが1人歩きしている良い証明である。

また、インチョン国際空港の免税店のそこかしこでも、等身大の「ョンさぁま」の立像がまさに印刷したような笑顔で微笑んでいらっしゃった。頭上には吊り広告もはためく。数ヶ月前はこんなんではなかったのに。なんだかなァ…。

サウナでテレビを見ていた時、今年のニューストップテンという番組をやっていたのだが、ノ・ムヒョン大統領のイラク訪問と並んで出てきたのは「ョンさぁま」が上向き目線で口を半開きにして微笑むお顔。それを見ていた韓国人の男性2人連れが、「あぁ、また、ョンさぁま…」と、苦笑交じりに呟いていた。彼らはこの呼び名、日本でのブームの事を冷ややかに捕らえているようである。

「ョンさぁま」と並んで日本で人気の高い、冬ソナ主演女優のチェ・ジウ氏も韓国ではそれほど売れている訳ではないらしい。

筆者は冬ソナ第1話の韓国語バージョンを見たのだが、オリジナル音声では、なんだか台詞回しがわざとらしい大根女優、という印象を受けた。日本では吹き替え版が放送されたので、その辺はあまり気にされなかったようだが、韓国人の友人によると、やはり彼女は大根役者、しかも地方の訛りがきつく、はたまた舌が短いためまともな発音ができていないのだとか。

別の知人は、彼女の名前「ジウ」というのも、美しい響きではないと言っていた。いびられ役が多いためか知らないが、演技中、無闇に泣くのも鼻につくらしい。なんだか散々な言われよう…。

さて、韓国到着翌日に会った知人が、これから何処を訪れる予定?と訊いてきた。友人の結婚式に参列するのと、そのついでに色々な友人知人に会うのが目的なので、他には特に予定は決めていない、と言うと、もし時間があったらナミソムへ行ったら良いよ、と薦められた。

ハテ?何処ですか?それは?

彼によると、日本人が好きでよく訪れる場所だという。あぁ、冬ソナのロケ地ですか!美しい場所なのでいつかは訪れても良いかも知れないが、今の時期行ったら、間違いなく、とろけそうなうっとり笑顔のイルボン・アジュンマ(日本人のオバさん)の群れに遭遇するのは避けられない。ともすれば、美しい並木道を自転車で2人乗りして、後ろに乗った人が両手を横に広げて空を見上げている姿(ドラマの有名なシーンの1つ)を見てしまうかもしれない。楽しい旅行先でそんなホラーな光景を見るのはゴメンである。

そうだなァ、行くとしたら、一過性の冬ソナブームが完全に去るであろう、10年以上後くらいになら行ってみても良いかも知れないけど。