ふ、冬ソナを見てしまった…

「の」と「タ」くらいは省略せずに言おうよ、と思うのは筆者だけではあるまい。

そんな事はともかく。

筆者は二〇〇四年春、なかなか進歩しない自らの韓国語能力向上のため、文化センターの韓国語講座に通い始めた。

とある日の始業前、先生がおもむろに紙片をばさばさと取り出しながら呟きだした。

「二、三年前に韓国の教え子から手紙を貰ったんですけどね、その時は気にも留めなかったんですが、コレって今、日本で流行ってるアレですかね。」

な~んと、それは「冬のソナタ」の一場面が裏にデカデカと印刷されたラブリーな便箋。原題「冬の恋歌(キョウルヨンガ)」も勿論デカデカと載っている。ほほぉ、韓国の学生さんは先生様宛にこのような便箋を使ってお手紙を書いたりするんだ(韓国語では役職の後に「様」にあたる語「ニム」を付け、先生様(ソンセンニム)となる)。

そんな事もともかく。

世間で何某かが流行っていようが、流行っているというだけの理由で無闇にそれらに手を出しまくるほど、筆者はみぃはぁではない。仮に流行りモノに手を染めるとしても、流行の嵐がほぼ収束に向かう頃、何かの拍子にたまたまそれらが目に入って「見てしまう」「試してしまう」というのが筆者本来のあるべき姿なのであり、「現在流行っているモノ」のためにわざわざ時間と金を費やすなどもってのホカである。

はっきり言って、このドラマには「毛筋ほどの興味」もなく、粗筋や出演俳優の名すら知らなかった。従って、主演俳優殿が来日し、成田空港にベッカム様見物客より多量のオバさん達が押し寄せた事も勿論知らなかった。が、韓国ブームに便乗した訳ではなく(言い訳がましいが真実だ)、韓国に友人知人がいるというだけの理由で俄かに韓国マニアになっている筆者の目の前に、たまたま「『冬のソナタ』第一話無料配信」のバナー広告が…。

「ま、タダなら見てもいいか。韓国語も聴けるし。」

まだブームの最中なのに!我ながら不覚!

なんて思っている矢先、ふと用事を思い出し、友人の所に電話した。そう言えば、彼女の義母はこの韓国ドラマにハマっていて、BS放送の頃から食い入るように見続けていたらしい。そういう話を聞いていたので、用件が済んだ後、無料視聴しよっかな~なんて事を話題にした。

「そうそ、前も言ったけど、ウチのハハがさぁ、ハマってんのよね。今も地上波放送欠かさず見てる。」

ハハの目当てはやはり主演俳優らしい。

「あのドラマ、中高年のオバ様達にとにかく人気らしいよ。ウチのハハも『あの純愛が良いのよ~~~』って、溜息ついてる。即ち、彼女達は自分が主人公の女の子になって、『ヨン様』とやら相手に自ら純愛進行中という図式なのだよ。」

へぇ~~~~、一体どんなステキなドラマなんだろね???それに「ヨン様」とわ???まァ、あまり期待もせずに、取り敢えずブロードバンドコンテンツの無料配信分を見てみた。

が。

う、主演女優、ダイコン…。て言うか、演技がいちいちわざとらしくて鼻につく。しかも女の子はドイツもコイツも台詞をがなり立てていてコワいんですけど…。オバ様方に人気の俳優の方は、雰囲気のある演技ができる、なかなか良い役者であったが。もっとも、オバ様方にとって演技なぞ二の次の要素であるに違いない。

それにしても、なんだか違和感なく見られる映像である。韓国ドラマは初めて見たが、人々の容貌や風景が日本と似ているし、生活水準が殆ど同じだから、日本と同程度に服装や家屋が小綺麗で、ハングルさえ見えなければ韓国物だとは暫く気付かないかもしれない。また、高校生は揃いの黒っぽい制服を着ており、教室の中の様子や登校風景、校門で生徒を取り締まる生活指導の鬼教師など、日本とよく似た光景があちこちに。その上教室掃除までしてるさ!アメリカの高校生活なら、こうはいきませんとも。

逆に、法事の作法やお供え物が妙に韓国っぽいなど、似た中に違う部分を見るのも面白い。主人公の母親の経営する洋品店に、実に韓国人ぽい強引な値切りを敢行していくオバちゃんが出てくるのにも笑った。以下、筆者の記憶による再現。

「良い生地を使っているので15000Wは戴きませんと…。」

「全然良くないじゃない(←だったら買うなよ)。負けてよ。」

「そんな、困ります」

「そんな事言わず、ハイ、コレでいいわね。」

オバちゃん、10000Wほど渡して無理矢理商品をかっさらっていく…。

筆者は韓国語初心者で殆どわからないとはいえ、韓国語の台詞を聴けるのも楽しい。二言三言程度の短い台詞なら聴き取りができるし、字幕と対比して語彙が増える事もある。教科書に出てこない、若者同士の会話表現も興味深い。それに、街中の看板の文字に知っている単語があればなんだか嬉しい。また、韓国語が全くわからない人でも、注意深く聴いていれば、「かばん」「てんぷら」など、韓国人が韓国語と信じて使っている日本語が耳に入ってきて面白いのではないだろうか。

第一話は主人公が高校生時代の話。初々しい青春モノ、という感じでまァまァ良くできた内容だったと思う(突っ込み所は色々あるが、ここでは省く)。特に続きを見たかった訳でもないのだが、

1.無料配信分を見た日が、たまたま地上波での第三話の放送日だという事を知ってしまった(求めなくてもこういう情報が押し寄せてくる、恐ろしい情報社会)
2.その日は休日だったのだが、お茶に誘った友人に振られ、実家に両親を訪ねて行ってもおらず、結構暇を持て余していた
3.そして近所のビデオ屋がたまたま半額セールをやっている日だった
4.その上、ちょうどコーヒー豆が切れており、ビデオ屋は豆を売っている店の近くだった

悪い事は重なるものである。

第三話を見るなら第二話を飛ばす訳にはいくまい(いや、飛ばしても構わんと思うぞ?それ以前に第三話をわざわざ見なくてもいいと思うぞ?結局続きが気になっていたのだろうか???)。そんなこんなで世間の謀略??に乗せられて、不覚にもビデオを借りる事と相成ってしまったのだが、ドラマのビデオにはありがちなように、一本に二話収録されていた。つまり第一話を無料配信で見たというお得感が、タダ風の前のチリに同じ…と、思いきや、思わぬ「拾い物」がっ!

無料配信で見たのは、原音に日本語字幕を付けたもので、映像も音声もオリジナル。予想はしていたが、ビデオは日本語吹き替え。ソレはまァいいとして、

「N●K!編集しまくっとるやんけっっっ!!!」

話の本筋にはあまり影響がない部分とはいえ、実にチマチマチマチマと場面が省かれていたのだ。各登場人物の趣味がうかがえる何気ない場面や、後のシーンの伏線となるさりげない表現、時には微妙に笑える場面や音声がばっさりとカットされていたり!!絶妙な編集点がものの見事に亡きモノにされていたり!オリジナルとまるで違う翻訳になっていた所もあったぞ!!!また、BGMが差し替えられている場面がいくつかあった。最も酷いと思ったのは、放送部員の主人公がABBAの「Dancing Queen」のレコードをかけて放送室で踊りまくるシーン。この部分、●HK製作のビデオ版では。
 
「え?ダンシング・クイーンじゃない???」

何故かBGMは韓国語の男性ボーカルのポップスに差し替えられており、それを知って見ると、ダンスのリズムが微妙に音楽とずれているのがわかる。勿論、彼女が「ABBAの『Dancing Queen』です」と曲紹介する台詞はカットされている。この場面の中で散々ABBAのレコードジャケットをちらつかせているというのに。一体どういう事だ?著作権料の問題?それとも単に「韓国色」を強調したかったから?(※)。

ビデオ版の唯一マシな点と言えば、日本語吹き替えになって女優らが優しげに見える事だろうか。原音で聴くと、ホントに怖いよ。また、字幕や吹き替えでは名前のみで呼び合っている事になっているので、初対面から何か慣れ慣れし~と勘違いしそうなのだが、実は韓国語音声では「カン・ジュンサン!」「チョン・ユジン!」とフルネームで怒鳴り合っている。こわ…(韓国では、あまり親しくない間はフルネームで呼ぶ事が多いようだ)。ま、韓国人が日本語吹き替え版を見たら、妙に勢いのないオナゴばかりで逆に違和感を覚えるのだろうが。後輩Nによるいい加減な情報では、韓国ではオナゴは怒ったように話すのが魅力的なのだとか?

さて、思いがけず突っ込み所が満載だったビデオを鑑賞し終え、第三話・地上波放送へ。時はいきなり十年後に移り、舞台は田舎街からソウルへ。女優の演技にはますますダイコンに磨きがかかり、彼女に想いを寄せる幼馴染の優男の懐は一見底なしに深くなってゆく。お人好しも大概にしろ。その上、彼らが大人になったらますます台詞回しがクサくなったぞ。青春ドラマとして高校生のままで全編通した方が良かったのではなかろうか…。そもそも、高校時代の話に終止符を打つ事になった「交通事故」ってのが如何にも捻りがなさ過ぎるよ(韓国ドラマではお約束のパターンらしい)。道路を横断する時もちっと気を付けていたら何とかなった気がする。迷惑なのはむしろ運転手の方だったかも。悲劇的な別れ、とするならば、もっとやむにやまれぬ状況を設定して欲しいものだ。それまでわりと丁寧に情景が描きこまれていた分、なんだか勿体無い。

更に、オバ様方の人気の的である主演俳優の役柄が、ニヒルな高校生から明るく人懐っこいキャラへ変貌するのだが、不自然にニヤケ過ぎで気持ち悪いよ…。本人は両キャラの違いを出すために「笑顔」の作り方を工夫したという事だが…。

ところで、高校時代の映像は田舎街の素朴な風景もさる事ながら、光の使い方が秀逸で、大変綺麗に撮られていた。特に主人公二人が薄暗い講堂でピアノに向かうシーンは窓からの逆光を上手く利用しており、吐く息さえ美しく見える。カメラアングルも絶品。ところが、場所がソウルに移った途端、人口光の目立つ、やけにチープな映像ばかりになってしまった。

そんなこんなで、なんだかもうコレでいいや、という気にはなってしまったが、地上波なら時間さえ合えばタダで見られるので、ネタ作りと称して今後も見てしまうかもしれない。「ふ、冬ソナを見てしまった… その2」なんてのを書いていたら、笑って戴いて結構(汗)。でもどうせ見るなら原音・ノーカットで見たいよなァ…てか、NH●よ、受信料をがっぽり取っておきながら、こんなずさんな切り刻み版を放送していいんかい???

※どうも著作権の方の問題らしい。一応韓国人監督の指示のもと、再編集したそうだ。しかし、ファンの方すらその編集能力を疑うようなそら恐ろしい刻み方がされているらしい。