日本マニアな人々

何も日本マニアはマルチリンガル・ルクセンブルギッシュ君だけではない。そもそも筆者がドイツへ出掛ける事になったのは、日本マニアのドイツ人、Svenのお陰である。彼とは二〇〇三年に行われたとあるマジック大会のとある会場の観客席で、たまたま隣同士になっただけの間柄である。が、彼は実は筆者が思っていた以上に日本マニアだった。彼と出会ったのは単なる偶然だと考えていたのだが、実は筆者が日本人である事が必然的要素の一つだったと改めて知る事になった。

彼が柔道をやっているという事は知っていた。マジック大会のあった二ヵ月後、大阪で世界柔道選手権大会が行われ、彼は観客として来日していたのだ。しかし、柔道はもはや世界的にポピュラーなスポーツだ。柔道家=日本マニアとは限らない。日本語をそれほど知っているようでもなかった。

が。

件のルクセンブルク人ほどではないものの、彼は意外とヘンな単語を知っていた。ミュンヘンの空港に迎えに来た彼が発した第一声は

「オゲンキデスカ」

ありま、少しは日本語知ってるんだ、と思った。日本語わかるの?と訊くと、「あらいぐま」「きょうりゅう」という単語を知っているという。一体何処で何のために覚えたんだよ…。しかも「R」の発音がドイツ語のままなので、「あがいぐま」「きょーぎゅー」としか聞こえない(ドイツ語のRは咽の奥をぶるぶる震わせるヘンな発音。筆者には「ガ行」音に聞こえる)。

その上、ルクセンブルク男が「Svenさん、行きましょう」と言うと「行きましょう」と、日本人の筆者を差し置いて、二人して日本語会話を繰り広げていたりする。しかもこの二人、途中から筆者の名前に「さん」をつけて呼ぶようになる。そうすると、反射的に「ハイ!」と返事をしてしまうのだよな…。「アリガトウ」「オハヨウゴザイマス」「オヤスミナサイ」なんていうのも毎日の事。アタシにもドイツ語の挨拶をさせてくれっっ!

これだけならまだいい。Svenのアパートへ皆で出掛けて行く途中、彼がなにやらニヤニヤしながら筆者に告げた。

「なんと、ウチにはJapanese toiletがあるのだよ!」

は?

なんと彼は、つい半年ほど前、「日本式の」ウォッシュレットを通信販売で購入したのだという。日本に行った際、多機能・便座暖め機能付きのハイテク・トイレを見てなんと素晴らしいのだろうと感動し、常に手に入れたいと考えていたそうだ。家へ着くなり、ほ~ら、これがその日本式トイレだ、と皆に嬉しそうに見せていた。取り敢えず用足しにお借りして出てきた筆者に向かって、

「何か機能を使ってみた?」

「イヤ」

「使えば良いのに。あれはすっごく気持ち良いのに…」

そ、そうなんですか?

更に、トイレのある廊下の突き当たりに寝室があり、ドアの前にかかっていたのは藍染の暖簾に朔太郎の詩を染め抜いたもの。むむ。マニア度が上がってきたぞ。更に、更に、彼の日本マニア度の高さを推し量れるものが居間の奥に存在した。なんと、ベランダ一面に白い玉砂利を敷き詰め、石灯籠とヘンなミニチュア植物を配置した「日本庭園」があったのだ!

うわぁ!なんだ・こりあ!

枯山水の筋目でも入れてあったらカンペキではないか!ベランダの塀にはスダレが縦に立てかけてあって、日本風を装う努力はしているものの、塀の外側にはこの街独特の洒落た中世風西洋建築が。純粋な日本人の筆者にとって、これはもう笑うしかないシロモノ。うぎゃはははっはははっはははっはははっはははっはははっはははっはは、とバカ受けしていると

「笑うな、僕の日本庭園だぞ!」とおカンムリだ。

ぎゃははっ。

ゴメン。でも笑うしかナカ。