ドイツ語三昧

ドイツを訪れたのはこれで四度目だったが、期間が最も長かったのは勿論、これほど多くドイツ人と交流したのは初めてで、ドイツ語シャワーを浴びまくる結果となった。勿論、筆者と一対一、もしくは筆者を交えて二、三人で話をする時は英語で話してくれるのだが、大勢で集まったとなるとそうはいかない。とりわけ後半は、一週間まるまる、数人のドイツ人と朝から晩まで共に過ごしていたから、彼らも始終筆者の事を構っている訳にはいかず、ドイツ語の中に放り込まれっぱなしだったのだ。

その分、かなり限定的だがドイツ語の能力は幾分か向上した。多分、「全然使えない」から「イマイチ使えない」くらいには上がったはずだ。例えば、単語としてあまりに長過ぎて覚えられなかった、「Entshuldigung」(英語の「Excuse me」にあたる)は、何度も何度も聴くうちに、ついに自分でも発音できるようになったぞ!英語と似た単語も多いので、注意深く聴いているとある程度の内容がわかってしまう事すらあった。

筆者も調子に乗って、知っている文章はたとえ不要でもドイツ語で喋ってみた。すなわち、英語で言っても大抵のドイツ人は理解するような文章である。が、筆者の発音はまずまずよろしかったらしく、「え、ひょっとしてドイツ語話せるの!?」と、嬉しそうに勘違いをされた事もしばしば。ドイツ語が話せない事がわかった後も、相手曰く「あまりに発音が良いので」ついついドイツ語話者と喋っている気になって、「Hast du….」とドイツ語で話し出されそうになった事もあった。

もっとも、ドイツ語の発音は英語よりも音節ごとの発音がはっきりしているので、アクセントの位置さえ正しければ、カタカナ通りに発音しても通じるものらしい。日本語チックに読んだらまさかわからないだろうと思って、試しにドイツ人の前で会話書の振り仮名を読み上げてみたら「ちゃんとわかるよ」と言っていた。あまり調子に乗らない事である。

注意深く聴いていて面白かったのは、親称と敬称の使い方である。ドイツ語には、英語で言うところの「you」に二通りの語がある。一つは心的距離のある相手に使う敬称「Sie」、よく「あなた」と訳される。もう一つは距離の近い相手に使う親称「du」で「君」と訳される事が多い。しかし、日本語の「あなた」「君」とは微妙に違っていて、例えば日本語では通常「君」とは呼びかけない学校の先生などにでも、心的距離が近ければ「du」を使う事もあるらしい。
今回気付いたのは、パフォーマーがお客さんに対して話し掛ける時、「du」を使う事だ。日本語では、こういった場面では「あなた」系の丁寧な言葉遣いをする場合が多い。また、演出上、重々しい雰囲気のキャラを演じる場合は「Sie」を使うようだ。ドイツ人から聞いた話では、軍隊では上官は部下に向かって「Sie」で話すという事だった。

そんなこんなで筆者なりにドイツ語アワーを楽しんではいたのだが、元々たいした基礎がある訳でもなく、ナチュラルスピードの大量会話を逐一理解で来る訳もなく、ドイツ人達の中で孤独を感じた事は一度や二度ではなかった。せめてもう少々語彙や知識があったなら、彼らの話も余計に理解できたし、もう数パーセントはマシな伸び方をしたに違いないと思うと少々残念ではある。