カナダ
第2節 カナダでのフツーの出来事

How are you?

例えば中国語の「謝謝」「再見」などが日本で一般的に知られているのと同じように、挨拶程度の日本語は他国の人々の間でも結構ポピュラーだ。ある時バンクーバーの街角で、どう見ても白人である2人の女性が「サヨナラ」と言って抱き合っているのを見た事さえある。日本語教室の同級生だったのだろうか?まァ、こんな極端な例はともかく、日本人を見かけるや「コンニチワ」と言ってくるヘンな外人は後を絶たない。しか~し、いきなり知らない人に「コンニチワ」なんて言わねぇよ、普通、日本人なら。

ちょっと見知った(日本語を知らない)外人からよく言われるのは「ゲンキ?」「オゲンキデスカ」という表現だ。しか~し、コレだってあまり一般的な挨拶ではない。釈然としないながらも「元気よ」と返してはやるのだが…。

実際にこの言葉を使う場面は、しばらく振りの人に会った時である事が多いように思う。少なくとも英語の「How are you?」と同義ではない。が、「How are you?」は日本語でなんと言うのかと日本人に訊ねて返って来るのは右の2例である事は間違いない。いきおい、外人さん達は「ゲンキ?」と言えば「How are you?」と同じ状況で適切に挨拶しているものと思ってしまうのだろう。

実際、英語ネイティブが「How are you?」と言っても、本当に元気かどうか確認したい訳ではない。形式化した気楽な「挨拶言葉」であり、日本語で言えば「よぉ!」「ちわ~っす!」といった具合だろうか。よくよく考えると、日本語には「How are you?」のような決まりきった挨拶はない気がする。

因みに、筆者は英語での「How are you?」という挨拶が未だに苦手である。このように言われたら「Good! Thanks. How are you?」と形式的ながらも「質問に答えて」「お礼を言って」「アンタはどうよ?」と訊き返さなければならない。そして更に相手のお返事「Good! Thanks.」まで続くのだ。面倒なので、と言うか、つるつる言葉が出てこないので、「Good! Thanks.」で打ち止めにする事が多くなってしまう。また、仮に上手い事最後まで言えたとしても、筆者の喋る速度がネイティブに比べてあまりにものろいので、相手のお返事「Good! Thanks.」の方が先に出てしまい、2人で同時に言葉を発して何がなんだかわからん状況になる事もしばしばだ。

全然別の話であるが、あるフランス人が、日本人に「How are you?」は日本語でなんと言うのか訊ねた。2人の間の会話は勿論英語である。筆者はこの場に居合わせた訳ではないので定かではないが、日本人が彼の質問を「Who are you?」と聞き間違えたのだろう。その日本人が彼に教えたのは「ドナタ?」であった。そして翌朝、「ドナタ~?」とにこやかに挨拶してくるそのフランス人の姿があったという。結局説明をして誤解は解けたらしいが、以後、彼との挨拶はギャグとして「ドナタ?」に定着してしまったようだ。

筆者がマジックのイベントに参加しにはるばるドイツまで出掛けて行った時、このフランス人がゲストとしてマジックショーに出演していた。パフォーマンスの最中、客席に向かって各国語で「Hello, how are you?」と言う場面があったのだが、筆者も含め、彼のギャグを知っている日本人3人が客席にいる事を承知していた彼が、日本語の挨拶で言ったのは、勿論、

「コンニチワ!ドナタ?」

我々は全く予想もしていなかったものだから、度肝を抜かれ、人目もはばからず、3人だけで大爆笑してしまった。