カナダ
第2節 カナダでのフツーの出来事

何処に住んでも幸せになれる

海外でロングステイした事は何度かあるが、日本食が恋しいとか、日本に帰りたいと思った事は殆どなかった。

よく「海外に永住?」と訊かれるのだが、今のところ、一生住む所は日本と決めている。カナダにも良い所はたくさんあるけれど、日本の良さも、多分、日本を出た事のない人々が気付かない部分で彼らよりも多く認識している。そういった日本の良さを誇りに思うし、だからこそ母国を捨て切ってしまう事はできない。

また、何処に住もうと自分は自分という確固たる信念があるから何処にだって住めるし、また、いつだって日本には帰る事ができる。だからこそ特別に日本を恋しいとは思わないのだけれど、すぐ手近に日本語という一番得意な言語があって、これまでの自分の歴史を培ってきた土地であり、何よりも言葉に不自由せず、落ち着いて自由に行動できる。この先、また別の国で長く滞在する事はあるかもしれないけれど、終の棲家はこの国になるのではないかと思うのだ。

「カナダが好き?」というのもよくされる質問だ。質問者が日本人以外なら、説明がめんどくさくて「Yes」と言ってしまうけれど、答えはそんなに単純ではない。勿論、カナダは暮らした事のある国だから、愛着はある。そういう意味で「Yes」というのは決して間違いではないが。多分、「カナダが好き」というのは日本人の筆者が「日本が好き」と言うのととても似ている。何処がどうだから好きという明確な理由はなく、また、当たり前過ぎて、敢えて好きと言うのはかえって居心地が悪いような、そういう感じなのだ。訪ねた事のある土地がたくさんあって、知り合いが住んでいて、そういう意味でこれまで訪ねた他の国よりは随分思い入れはあるけれど、そこを再び訪れるのは日本に帰るのと同じ感覚になりつつあるような気がする。

ワーキング・ホリデーなどで長くカナダに住んでいた人が、日本での自分の状況を不満に思い、「カナダの方が良かった」と愚痴るケースが結構あるのだという。バンクーバーの日本語情報誌の編集者宛にそんなメールが度々届くそうだ。その編集者に宛てて、「あなたはカナダに住んでいられて幸せですね」と羨望の言葉を投げていた方がいたのだが、おいおい、それはどうよ、と、筆者は思った。大体、自分で状況を改善する努力もしないうちから他人の境遇を無闇に羨ましがる輩にロクなのはいない。案の定、かの編集者は「俺はカナダにいるから幸せなんじゃない、何処にいても幸せになれるように頑張っているから幸せなんだ!」と、突っぱねていた。

この言葉は筆者自身にも当てはまる。日本でもカナダでも最高級の生活はしていないけど、自分が満足できる暮らしができるように、常に努力はしているのだ。改めて言うほどの事でもなく、これは人として当たり前の事なのだろうけれど。