ドイツ
第2節 ドイツ語圏でシゴト

有名無実の手荷物規制

ヨーロッパ人にとって身近なアジアはせいぜいインドまで。ドイツで売られている安い衣料品はMade in ChinaよりもMade in Indiaの方が圧倒的に多い。インドが大好きなドイツ人の友人Jも、インドまでは度々出かけるのに、日本は遠くてなかなか行けない所、と思っている。所詮、我々の住む地域は未だ彼らにとっては極東なのである。さて、今回筆者は香港の航空会社を利用してドイツまで飛んだわけだが、我々にとってはヨーロッパ旅行の手段として割とよく認識されているこの路線、ヨーロッパ人には馴染が薄いようだ。彼らにとっては香港だって極東だ。しそもそも、彼らがよく利用する航路に香港自体が含まれていない。空港に送って貰う時などに、「どこの航空会社?」と訊ねられて答えはするものの、「ハテ?聞いたことないな?」と言う顔をされた。

ところで、筆者が仕事で飛行機に乗る時に苦労するのが荷物の重量。エコノミークラスの預け入れ手荷物は、国内線は15キロ、ヨーロッパ線は20キロまで。5キロオーバーくらいまではまず何も言われないが、それより100グラムでも超えているとケチをつけられる場合もあり、オーバーしている分を機内持ち込み分に移したこともあった。結局合計重量が同じなんだからどうでもいいじゃんよ…。

仕事用の荷物をスーツケースに詰め込むと、これだけで20キロ以上になってしまうので、その他の身の回りの物はバックパックに詰め込み、「手荷物」と称して担いで歩くことになる。機内に持ち込めるのは一応7キロまでと決まっているが、7キロを切ったことなど1度もないぞ。

規則なら守らなければならないが、空港や航空会社、はたまた対応した職員の気分によって判断にばらつきがあるから厄介だ。新人職員なんかは律儀に杓子定規で「規則ですから」の一点張り。「なんとかなりませんかね」とこっちが食い下がると、上司に判断を仰ぎに行き(この時点でアウトだ)当然、「ダメ」という返事をもらって帰ってくる。かと思うと、時に何のお咎めもなかったりするから、こちらもそれを見込んで甘えてみたくなる。

そんなこんなで、コレまでのところ気をつけておかなければならないのは預け入れ手荷物の方ばかりだったので、こっちに関しては筆者も慎重になっていて、「体感重量」で25キロを感じ取れるまでに訓練されていたのだが…あろうことか、なんと今回は機内持ち込み手荷物について物申されたのである。まずは名古屋空港で。日本人の地上職員に「手荷物の重さも量らせてください」と言われ、しぶしぶ荷物をさしだすと、当然、はるかに重量オーバー。が、コレまでのところ、手荷物検査でも搭乗時でも手荷物について注意を受けたことはなかったので、「この地上職員さえ煙に巻けばOK」と踏んだ。「超過分は郵便で送ります」と大嘘を付いてその場を乗り切った。行きについてはこれで問題なかったのだが…

ドイツからの帰りに応対したのは、気の強そうな中国人のネエちゃん。行きの手法は通用せず、カートに残った「送る予定の手荷物」を指して、これらの発送を済ませてからやって来い、とイケズなことをのたまう。とにかくこのネエちゃんの目の前から荷物が消えればいいだけの話なので、知り合いでもいればちょっと荷物を預かってもらえばいいのだが、生憎、空港まで送ってくれた知人は既にその場にいなかった。しからば預かり所に託すしかあるまい。ほんの10分ほどのために馬鹿馬鹿しい話だが、本当に航空便で荷物を送るよりはマシである。「郵便局は何処にあった」「発送した証拠にレシートを見せろ」などと更に意地の悪い?質問をされかねないと考え、念のために郵便局の場所を確認しようと一瞬思ったものの、なんだかめんどくさくなり、いざとなったら逆切れして乗り切ってやることに決めた。「規則」に従っていないのは自分の方とはいえ、結局建前上杓子定規になっているだけと言うのは見え見えだったので、なんだか腹立ちを通り越して投げやりになっていたワシ…。

さて、手荷物検査を終えて搭乗口に向かう。もうこれで何も文句は言われまい、と高をくくっていたのだが、その考えは甘かった。なんと、搭乗口にも手荷物チェッカーが待機していたのであった。筆者の巨大なバックパックを見咎めた地上職員、「ちょっとその荷物を持たせてくれるかな?」とジェントルに微笑みつつも、「コレは重過ぎるね」と、容赦なく筆者を秤の方に向かわせる。バックパックは13キロ近くあった。応対した女性職員は「7キロまでしかダメなのよ」と言う。

「んで、どうしろと?」

今更預け入れにすることもできないし、超過料金を払えとでも言うのか。

「空港のそこら中に手荷物は7キロまでって書いてあるでしょ」

うん、でもそれはコレまでの経験から、殆ど建前上のことだと思ってたもんで。すると彼女、筆者がラップトップのキャリーケースを持っているのを見て、こう言った。

「7キロの手荷物以外に、ラップトップは持ち込んでいいことになっているの。だから、超過分をそこに入れなさい。」

お~~~~い。6キロ分の荷物を、この小さいケースの何処に入れるんですか?????

何とも不思議な提案である。

そもそも入るわけはないのだが、一か八か、筆者はそこに荷物を入れる「ふり」をした。ナニ、バックパックの中に紙袋を持っていたので、実際はそこに荷物をいくらか移しただけなのであるが、所詮「建前」のみで言い咎めている職員が、カウンター越しにそれを確かめるわけもない。軽くなったバックパックは7キロちょっと。「まあ、OKね」と、ようやくお許しが出て、筆者は3つに別れてしまった荷物を持って、再び手荷物チェッカーの前を通ろうとした。何か言い咎められるかも、と思いきや、彼はよそ見をしていて一向にこちらの方を見ようとしない。コレ幸いとすり抜けて待合所に滑り込む。最初からこうしてればよかったのかなぁ…

で、待合所に入るや否や、筆者は先ほど取り出した荷物を再びバックパックに戻した。搭乗時には、先ほど荷物の重量をチェックした女性職員がゲートに立っていたけれど、再び咎め立てされることはなかった。最終的にどーでもいいことなんだったら、アレほどしつこくチェックしないでください…

筆者の同業者はやはり荷物持ちが多いのだが、その辺にいる荷物の軽そうな人をつかまえて、「この人と一緒だから」と嘘を言ってみたり、それぞれ工夫をしているらしい。某航空会社の「プラチナポイント」とやらを貯めたり、マイルをアップグレードに使ったり、筆者には少々無理そうな金持ち的趣向をこらしている人もいた。

ナンにせよ、これほどしつこいチェックを入れるは、香港をハブにしている某航空会社のみのことと思いたい。こちらの路線、スッチーの態度がやけに尊大であり、帰りは何故か台北に寄ったりして時間のロスも多いので、まあ、2度と利用してやるものか、とか思ったり。