ドイツ
第2節 ドイツ語圏でシゴト

American!!

ヨーロッパにおけるアメリカ人の評判は必ずしもよろしいものではない。問題なのは、当のアメリカ人の大部分がその原因をアメリカに対する「jealousy」と勘違いしていることである。が、彼らが嫌われる真の原因のひとつは、周りに気を使うことが出来ず(即ちガサツで思い遣りがない)、その土地の常識は無視しまくって、自分の国の常識は世界の常識とでも言うようにそのまま外国に持ち込む、なんてことではないだろうか。大規模なところで、イラク戦争とかアフガニスタン空爆なぞを見ていても根本は結局この辺に終始している様な気がする。

筆者が簡単なドイツ語を一言喋っただけで大いに驚嘆したオーストリア人の知人、F君が、こんなクイズを出してきた。

「3言語話す人のことをなんていうか知ってる?」

「トライリンガルでしょ?」

「じゃあ、2言語は?」

「バイリンガル」

「1言語しか話さない人は?」

「え?聞いたことないなあ。モノリンガル?」

「違うよ。『アメリカン』だ」

彼自身、「英語しか話さない」彼らに辟易した経験があるのだろうか?筆者の俄仕込みのドイツ語に大げさに反応した理由はこの辺りにあるのかもしれない。勿論、他言語に精通し、気遣いも出来る繊細なアメリカ人もいないことはない。筆者の知人にも何人かそういう人はいるが、「でもそれって多数派じゃないよね」と、F君はあくまで否定的だ。

彼はアメリカ人の外見に関して、もう1つ面白い事実を教えてくれた。サンダルと短パンを履いてリュックを背負った中年のオバさんがいたら、それは間違いなくアメリカ人だ、と。確かに、ヨーロッパの女性がそんなだらしない格好で街中をぶらぶらしている姿は見かけない。

実は、筆者は今回の旅で、典型的なガサツなアメリカ人に不幸にも遭遇してしまった。ミュンヘンでの仕事が終了した後に滞在したユースホステルは6人部屋のドミトリー。部屋は広々としていて、寝具もそこそこ良質、各部屋にプライベートバスルームがあり、なかなか居心地が良さそうだった。

が。

夜、寝る準備をしていると、ビールのジョッキを片手にした小娘を先頭に、白人の小娘どもがどやどやと入ってきた(他人もいる寝室にビールなぞ持ち込まないでくれ。匂うだろうが)。先頭の小娘は、入ってくるなり、上段のベッドにいたオーストラリア人の女性にむかって「ハーイ!アタシは○○っていうの。ステイツ(アメリカ)から来たの!アナタは?オーストラリア!とってもクールね!!」と大声でわめき始めたのだ。見るからにアジア人である筆者は英語が通じないとでも思ったのか、なんなのか、存在しないかのごとくハナから無視。こんな軽そな小娘と話が合うとも思えないので、別にいいのだが、如何にも感じが悪い。その後、彼女は今回の旅が如何にエキサイティングで素晴らしいものであるかを大音量で延々と話し続け、それは筆者が布団に潜り込んだ後も30分以上は続いていた。大声でお話したいなら階下のバーへ戻ってください。

翌日の昼、外出から戻ってきて更に驚いた。前夜に持ち込んだビールのジョッキはテーブルの上に放置されたまま。バスルームに入ると、洗面台の上、シャワールームの物置台は彼女らの物と思われる私物で占拠されていた。これで他の人が不便をするなんてことは少しも思いつかないらしい。しかも、バスルームの床は泥だらけ。土の付いた外履きで入り込み、シャワーの水で床を濡らした上を歩き回ったに相違ない。洗面台も髪の毛まみれだ。

この翌朝、筆者は早くに発ったのだが、小娘たちはまだ眠っていた。だから、なるべく音を立てないように気を使ってパッキングをしていたのだが、そのうち小娘の1人がもぞもぞと動いて、「ちょっと静かにしてくんない」と不機嫌そうにのたまった。いつぞやのキミたちより1万倍くらい静かにしているつもりだったんですけどー。 ホントに身勝手な人々だなぁ…。まぁ、自らが人に迷惑をかけていたと言う自覚すらないようだから、致し方あるまい。

実はグラーツで会ったヘンな日本人、Kさんもコレとそっくりな体験をしたらしい。ウィーンの雰囲気の良いユースに投宿したものの、既に彼女が床についてから、夜中に数人のガイジンがなだれ込んできて(アメリカ人かどうかは定かではないが、英語を喋っていたそうだから多分そうだ)、大音量でおしゃべりを始めたそうだ。その上、彼女が洗濯して干していた5本指ソックスを指して、「なにこれー、ヘンなの~~~!」と、彼女の持ち物をネタにして笑っていたそうだ(英語が苦手なKさんも、悪口を言われているのはわかったらしい)。腹を立てた彼女は翌日以降の予約をキャンセルし、さっさと次の目的地へ向かってしまったとか。結局ウィーンではオペラハウスの前を通っただけで何もしなかったらしい。「やっぱりアタシに都会は向かないわ!」と、明るくのたまうKさんなのであった。

そういえば、グラーツのユースにいる間にも迷惑な白人のおねえちゃんがやってきた。白人であると言うだけでアメリカ人かどうかはわからないが、コレまでの経験とガサツさから考えてアメリカ人ではないかと勝手に仮定する。Kさんと筆者、台湾人の姉妹、計4人はごくごく妥当な時間に布団にもぐりこみ、静かに寝息を立てていた。それが、真夜中もとうに過ぎた頃、突然部屋の電気がつけられた。どかどかと大きな音を立てて入り込んできたその白人、「寝ている人がいるから静かにしよう」という気遣いは全く見せず、立てられる限りの雑音を鳴り響かせながら荷解きをし、Kさんの眠るベッドの上段に居を構えた。朝起きてみると、Kさんの出入りの邪魔になるような位置にシャツが吊り下げられている。ナニこの白人、昨日の晩は常識では考えられないくらいハタ迷惑だったわね、と、我々アジア人は、まだ眠っている白人小娘に向かってごく控えめに雑音を投げかけてやったのである。

そういえば、ミュンヘンのショーには1人、NYから来たゲストが出演していた。彼は筆者が出演した翌週の、ワンマンショーのゲストだったのだが、プログラムには予め、英語のショーであると明記してあった。「NYから来た」とあれば、当然アメリカ人であると思い込んでいたのだが、彼のショーを見ていると少々様子が違った。。まず、ショーの半ばで「皆さん、英語は大丈夫ですか?わからない事もあるといけないから、一応、彼に通訳も頼むことも出来るんだけど」と、ドイツ人スタッフを指して言う。ショーの途中でも、「クラブの5」などのカードの名称をドイツ語で言ってみたりする。普通、アメリカ人はこんな細やかな心遣いはしない。

と思っていたら、案の定、彼はもともとカナダの出身だったのだ。赤・白・青の小さいハンカチを用意し、赤と白だけを手の中に押し込んで、青はワキへよける。「コレでいいのさ。だって僕はカナダ人だもんねー」と、手を広げると、ハンカチはカナダ国旗に変わっている。彼は矢庭に「Oh! Canada~~~」と、歌いだすも、カナダ国歌をよく知る人がその場にいようはずもなく、観客を巻き込んでの斉唱とはならずに、彼の歌声はにわかにトーンダウン(爆笑)。

場所がドイツだったのでウケ具合はそこそこだったが、こういう、アメリカ人の優越感を逆手に取ったカナダの自虐ネタは、アメリカ人にはとっても喜ばれる?ようだ。