日本人と結婚する白人男はイモくさい!?

日本を始め、アジアでは西洋人だというだけで無闇にチヤホヤする傾向がある。中国で、有名人でもなんでもない西洋人とレストランに行った時、料理長がサインを求めてきた事がある。彼は「信じらんないね」と、苦笑しながら応じていたが。それから、日本で盛んな英会話スクール。西洋人の男性がここの講師になればモテまくってしょうがないそうだ。アジア系だと、例えネイティブスピーカーでも人気がないとかいう記事を読んだ事がある。妙な話だ。こういう人が意外と本当に良い講師だったりするかも。狙い目!?

ところで、前章の三人の女性はカナダに住み着いて十年以上になる。筆者よりもずっとカナダの現実を見ているし、知っている。この日もう一つ話題になったのが、「日本人と結婚するカナダ人の男はダサい奴が多い」という事だった。

「日本に来ている外人って、なんかイモくさいのよね」彼女らの一人がそう言うと、もう一人も「そうそう!でもって、日本人が奥さんだと、それがすっごいブスだったりするのよ!」と、応じる。「大体、日本に来るような奴はこっちでまともにやっていけないから日本なんかに行くのよ。まともな人はカナダでもまともにやっていけるし、カナダ人の彼女がいるんだから!」

この発言が全ての国際結婚カップルに向けられるとしたら大変失礼な事になると思うが、まァ、これはここだけの話として。が、この時ふと筆者の頭に、日本人を妻に持つ、イモくさい男の事が思い浮かんだ。それは前の月に筆者を家から追い出したカナダ人の男の事だった。因みに奥さんはブスではなかった。

初めて会った時、彼は挨拶の言葉さえ発しなかった。それどころか、いきなりずかずか筆者の部屋に入ってきて、部屋の窓を閉めだしたのである。え?何?この人?と、思っていると、別の部屋にいた奥さんが「あなた、かめこんさんに挨拶した?」と言ってきた。その答えは「今しているとこ」。一体どこが挨拶だったのだ!?ここ二、三日暑かったので、窓を開けておいたのだが、彼はそれを閉めに来たのだという。そんな事は大きなお世話であるし、それはともかく、初対面だぞ?普通その前に一言でも挨拶するだろうに。それにもう他人が住み始めた部屋だ。入る前に何か言うべきだろう。

この家に住む事は、その一ヶ月前、七月の半ばに家探しをした時に決めてあったのだが、この時、何故か旦那の方には会わなかった。奥さんが感じの良い人だったのと、部屋に十分な広さがあった事で決めたのだが、家賃とデポジットを払いに二度目に訪れた時、恐らく家にいただろうに、彼は出て来なかった。これが失敗の元だった。

彼は家で仕事をしているらしく、一日中家にいる。奥さんは仕事の都合で二、三日家を空ける事が多い。そして彼らには一歳ぐらいの子供がいた。筆者は筆者で、仕事に行く訳でも学校に行く訳でもないので、旦那と同じく家にいる事が多い。そして筆者は子供が特に好きという訳ではない。毛嫌いするほどではないが、自分から構ったり、わざわざ頭をなでてやったりという事はしない。これらの事全てが関係して「追い出し事件」に至った。

筆者が借りた部屋はメインフロアの一室で、同じ階に共同で使う台所やバスルームがあった。彼ら三人の寝室・仕事部屋は二階にあった。奥さんが家にいるうちは、彼女が一階で子供の面倒を見ており、旦那は滅多に降りて来なかったのだが、奥さんが家を空けた時は何故か頻繁に降りてきた。そして、筆者が何か物音を立てると、ひどく気になるらしく、何か別の用事をするふりをして降りてくるのだった。初めはそれほど気にならなかったが、様子があまりにも神経質過ぎるので、この人と一緒にずっと住んでいけるのか不安になった。

とにかく、奥さんが留守の間に全てが起こった。彼らは家でビジネスをしているので、よく仕事関係の電話がかかってくるという。筆者は彼らと共同で電話を使う事を許されていたが、あまり長電話にならないようにと言われていた。元々あまり電話で話す方ではないのでこれは問題なかったが、ダイヤルアップでネットに繋ぐため、サイトの更新をする時には少々時間がかかる事がある。なので一体マキシマムは何分くらいかと一応訊いておいた。すると彼は五分くらいと言った。それならば夜はどうか。夜なら電話もかかってこないし、筆者が多少長めに接続しても問題はなかろうと思ったのだが、十一時以降は使ってくれるなと言う。理由は「モデムの音がうるさいから」。しかし、ボリュームレベルの調節でモデムの音は完全に聞こえなくする事ができる。ならば問題ないはずだが、これ以上何かを言うと波風が立つと思ったし、接続できないならできないで構わないので、それは承諾した。

昼間は昼間でラインが空いている時は繋いでも良いという事だったが、ある日彼が一階に降りてきていた時、ネットに繋ごうとしたら、今自分のパソコンから繋いでいるから駄目だと言う。なんと彼はダイヤルアップ接続で二、三時間かけて何かをダウンロードしていたらしい。それなら待つから良いよ、と言い、しばらくしてからもう良いかと訊いたら、まだ駄目だという。挙句の果てに、筆者に向かって、「君はパソコン専用の高速ケーブルの契約をした方が良いのでは」と、親切ぶって言ってくるのだ。ちょっと待て、そういう契約をするべきなのはどっちだ?仮にも家賃を取って他人を住まわせるのだ。電話のラインを共有するならお互いに不利益が生じないように取り計らうのが家主の務めだろう。それができないのならば、店子に別のラインを引かせるようにすればいいのだ。以前カナダにいた時のルームメイトはそうしていたので、この事については、筆者は事前に確認しておいたのだが…。

彼らはベースメントにも三人店子を持っていて、つい最近まで彼らともラインを共有していたという。彼らの殆どはウェブメールを使っているので、メールのチェックだけでも接続時間が長くなる。それに閉口してベースメント専用のラインを引いたそうだが、対処があまりにも遅過ぎる。単にケチなだけなのかもしれないが。

電話の事だけではなかった。ある時、彼の娘が便器に手を突っ込んで遊んでいた。彼は慌てて娘を抱き上げ、手を洗わせたのだが、筆者に向かってこう言った。「彼女が手を入れると危ないから、便器の蓋を閉めておかなきゃ駄目じゃないか」。便器の蓋を閉めておくのはまるで宇宙の常識かのような口ぶりだった。彼が言うには、彼女はまだ小さいので、何を言っても理解できない。だから大人の方が、危険がないように注意してやらなければならない。それはわかる。だが、ここで彼がまずするべきなのは、例え言葉が分からなくても、それはいけない事だと娘に言い聞かせる事ではないか?

また、台所には蓋付きのゴミ箱があったのだが、そこにゴミを捨てるのは彼女が見ていないのを確かめてからしろという。大人がしている事が何でも気になるので、何を捨てたか気になってゴミ箱を漁るのだという。まるで躾の悪いペット並みの程度の低さだ。

この小さい女の子は、一日中泣き喚いていた。しかし涙は出ていない。ウソ泣きなのだ。母親がいる時はそれほどでもなかったので、寂しくて大人の関心を買いたかったのだろうか。しかし、彼女の父親は、それは筆者が来てからの事だと言った。「君にとっては子供のいない別の家に移った方が良い」、と、如何にもこちらの事を気遣うかのように切り出したが、これは「出て行け」と言っているのと同じだった。

彼には色々と不愉快な事、理不尽な事を言われた。しかしその度にそれを表情や態度に表す事はしなかったし、彼の話した「ルール」は全て守ってきた。彼の娘を特に可愛がりはしなかったものの、小さい子供という事でそれなりに気は使って接していたし、彼女の事を迷惑に思った事さえない。筆者自身にとっては「子供のいない別の家に移った方が良い」希望も理由もなかったのだ。あくまでこれは彼にとっての都合でしかない。

三日明けて、仕事から戻った奥さんが、彼から筆者を追い出す話を聞いた時、彼女自身も驚いたそうだ。彼女にはそうする理由が見当たらなかったという。しかし家に長くいるのは彼の方だし、彼がそう言うなら仕方がないのかも、と言って、すまなさそうにしていた。以前彼らがステイさせていたのは学生や社会人ばかりで、大抵は昼間は家にいない人達だったそうで、筆者のようなケースは初めてだったという。しかし、筆者がどういう生活をするかは事前に話してあったので、これは明らかに彼らの手落ちだ。そもそも、そういう事を気にするのが旦那の方なのだったら、何故彼は筆者が金を払いに来た時に顔を出さなかったのだろう?

結局、筆者はこの家に一週間いただけで他へ移った。彼の抑揚のない陰気な喋り方、無表情な顔、自分本位な話の内容、全てが筆者にとっては不愉快だった。「出ていけ」と言われる以前に、ともすれば筆者の方から出ていきますと言い出しかねない所まで来ていたのだが、幸いな事に、切り出したのが家主の方からなので、デポジット、残りの家賃とも全て戻って来た。ついでに次の家探しの経費に当てるため、一日分の家賃も返して貰った。

家を移る時、彼になど会いたくもなかったが、一応挨拶はしておくべきだと思って奥さんに「彼はいる?」と訊いてみた。彼女は二階にこもっていた彼に「かめこんさんが行くわよ!」と声をかけてくれたのだが、彼は上から「Good Bye!」と怒鳴っただけだった。奥さんが「降りていらっしゃい!」と言うと、しぶしぶ降りてきて、無理に作った歪んだ笑顔で挨拶らしい言葉を呟いた。彼のその時の様子を思い出し、コミュニケーションをまともに取れない日本の若者達の姿に重ねてしまった。とどのつまりは彼もあの若者達の同類なだけなのかもしれない。