万国共通過保護問題

アジア人女性四人で集まった時の事。筆者以外はカナダの移民で、それぞれ子持ちである。一人は日本人留学生のコーディネータで、日本人のご主人がいる。もう一人はカナダ人の旦那と別れた人で、彼女が筆者をこの集まりに誘ってくれた。この日はほぼこの二人の独壇場だった。

この時のホストが日本語のわかる台湾出身の女性で、とても大きな家に住んでいた。彼女は留学生のホストファミリーをしており、この日は、つい最近までこの家にいた日本人の男の子の話で盛り上がっていた。この男の子が帰る間際にトイレを詰まらせ、水が溢れて階下まで浸水。エラい被害を被ったのだが、男の子は事故を起こした段階でそ知らぬ振りして帰国してしまったので、大もめにもめているところだった。

「それがヘンな子だったのよ。とにかく、全然喋らないの」というので、英語がわからないのかと思ったら、それ以前の問題だった。コーディネータの女性が「日本語で」話し掛けても、YES❘NO疑問文で(勿論日本語で)質問しても、何も答えないのだという。初めて会った時には挨拶さえしなかったそうだ。つまり、他人とのコミュニケーションが全く取れないのだ。子供かと思ったら、大学生だったそうだ。しかし、十歳以下の子供だって、まともな子なら挨拶はするし、返事もできる。彼がこんなになってしまった原因はなんなのか。それはこの女性が語った別の話から容易に窺い知る事ができた。

この家には他にもたくさん留学生がいたため、その子達と友達になるきっかけを作れるようにと、母親が日本の民芸品を持たせたそうである。ところが、結局彼はこれを誰かに渡す事なく、帰る日を迎えてしまった。彼自身がその事を母親に話したのであろう、帰る間際になって、母親からコーディネータの所に電話で次のようなお願いがあったという。「あの子は自分からは言い出せないと思うので、残っているお土産をホストマザーに渡すように、あなたの方から声をかけてやってください」…って、これ、大学生の母親の言う事かい!?彼のこれまでの人生の中でずっと、母親がこういう余計なお節介をしてきたため、彼は自分で何か行動を起こさなくても済んでいく生活をしてきてしまった。YES❘NOさえ答えなくても済む檻の中にずっと閉じ込められてきたのだろう。そして、彼は自分で起こした問題を適切に処理する方法さえ見つけられない人間になってしまったのだ。それどころか、処理する必要性さえ感じられなくなっているのだ。後でそれを発見した人々が被る迷惑には思いも及ばせられなかったのだろう。

また、コーディネータの方ご自身の家にも別の日本人の学生がいるそうだが、この子もまともにコミュニケーションが取れない上、趣味も特技も何もなく、「一体何が楽しくて生きているんだろうね」とまで言われていた。皿洗いなどの手伝いをさせてもイマイチ仕事が完璧でなく、どこかに汚れが残っていたりするそうだ。

こういう話が日本人だけの事と思ったら、別の家庭にいる韓国人の女の子達の中にも、だらしがなくて、電気が付けっぱなし、扉が開けっ放し、というように、どうも基本的な生活態度がなっていない子がいるという。筆者がこれまでカナダで出会った留学生の中にはこんな人はいなかったのだが…。コーディネータに何から何まで頼らなければ留学の手続きすらできないような人というのは、そもそもまともじゃないという事だろうか。彼女によれば、「アタシが世話するのは変な奴ばっかりよ」という事だった。筆者の推理はあながちハズレでもなかろう。だとしたら、彼女は「ヘンな奴らの世話をするのが仕事」と割り切らなければならないのかもしれない。

また、そんな話をカナダ人の友人にしたら、「ウチの旦那の所にステイしていたあの子もそんな感じだったらしいよ」と言っていた。彼女の夫は単身赴任中で、たまたま彼がいる都市にある大学に進学する事になった娘のボーイフレンドが、シェアメイトとして同じアパートに住み始めたのだが、ものの十日もしないうちにホームシックになって家に帰ってしまったそうである。え?大学はどうするの?と訊いても、彼女も詳しい事は知らなかった。なんでもお爺様が一年分の学費を払っていたそうだ。筆者はその男の子に会った事があるが、右記の日本人学生のように、他人とコミュニケーションを取れないという事は全然なく、明るい感じの子だった。が、彼は買い物はおろか、自分の身の回りの事を何一つできなかったそうである。過保護は日本ばかりの問題でもないようだ。

似たような話は日本国内でも聞いた事がある。以前筆者がバイトをしていた長野県の旅館に遊びに行った時の事だ。ここでは年始年末、夏季繁忙期などにアルバイトを募集しているのだが、筆者が訪れた新年のその時は、何故かバイトが一人もいなかった。「今年は酷かったのよ!」と、奥さんが言う。なんとバイトが逃げ出してしまったのだという。聞けば、ろくに仕事もできないのに言う事ばかり偉そうで、「こんな大変な仕事なのに報酬が出ないのはおかしい」と言ったそうだ。正確に言うと、彼らはバイトではなく、「居候」制度を利用して来ていた。スキー部などに所属する学生が、冬の間、働きながら無料で旅館に置いて貰い、空いた時間にスキーの練習をして過ごすのである。旅館にもよるが、バイト代は出ない事が多い。しかし、初めからそれは承知で来ているはずなのだ。

旅館の奥さんの話によると、彼らは仕事の覚えが著しく悪い上、要領が悪く、仕事が遅い。そのくせ文句が多い。優等生で通ってきたのか、変にプライドが高いらしい。恐らく、彼らはこれまで労働というものに携わった事がないのではないか。例え無償のボランティアでも、仕事として引き受けた以上は労働の結果に対しては責任があるし、目的に沿って的確にこなす義務がある。掃除をするなら綺麗にする事、皿を洗うなら汚れを完璧に落とす事が目的となる。そもそも彼らにはそういう認識がまるでないのではないかと感じた。仕事を完璧にこなす前に文句が出るのがそれを物語っている。大体、聞いた話によると、彼らが音を上げたのはまだ客の人数が少ない時期で、そんなに大変な仕事はしていなかったそうだ。彼らの場合、カナダの日本人留学生より喋るだけマシだったが、育ってきた家庭環境は似たようなものであろう。