カナダ
第5節 こーゆートコロが困るんだ

カナダに居る困った人々

複数の用件を一度に片つけられない人々

北米人と付き合っていると、妙な違和感を覚える事がある。メールのやり取りをしている時に多いのだが、どうもこちらの書いた内容をきちんと読んでいないと思われる節が多々あるのだ。特に、長いメールに複数の用件を書くと、最初の用件についてはちゃんと反応するのに、それ以下についてはまるで何もなかったかのような梨のつぶてぶりなのだ。初めは、相手がたまたまうっかりしていただけだと思ったのだが、どいつもこいつも、毎回毎回だと、これはもう彼らの特質としか思えなくなってきた。最近では諦めて、メールの内容は「できるだけ短く1つの用件で」済ませるように、こちらが気を使っている。ひょっとして、彼らは頭が弱いんじゃないだろうか、と本気で思った事さえある。実は今もそんな可能性があるんじゃないかと半ば思っているのだが。

ある時、そんな知人の1人とメールでやり取りをしていて、「マジックショーに出てくれないか」という依頼があった。彼らとは違って、筆者はメールは隅から隅まで読み、誤解して返事をしていないかどうか確認をした上で返信をする。まァ、ビジネスメールだったら大抵の人がそれくらいの事はするだろう。そして、「喜んで出演します」と、「メールの末尾に」返事を書いた。

I would love to perform in both of the conventions.
Thank you so much for giving me these opportunities.
(喜んでマジックショーに出演させて戴きます。
このような機会をくださって有り難うございます。)

ところが。彼からの次の返信にこんな文章が。

Did you read the part about the two requests for performances?
You don’t need to answer now.
They are just wondering if you are interested.
(マジックショーの出演に関するお願いの部分を読みましたか?
今すぐ返事をいただかなくても結構です。
その気があるかどうかだけでもお訊きしたいのですが。)

筆者は、思わず自分が書いた前のメールを探して読み直してしまった。確かにその返事は書いたと思ったけれど、自分の勘違いか、何かの拍子にその部分が消えてしまった可能性がない事もないからだ。また、文法的な誤りで、相手に誤解を与えた可能性もある。が、その用件については右のように返答していたし、英語にも特に問題がないようだった。「お~い、アナタこそ私の返事をちゃんと読んだんですか?」と、まず言ってやりたかったが、そこは抑えて「前に返事をした通り、喜んで出演させて戴きます」と、筆者にしちゃ大人な対応をしてやり過ごした。

同じ人物の注意力散漫ぶりを物語るエピソードをもう1つ。2002年の夏、カナダの田舎町でひと月ほど過ごし、その後、バンクーバーへ引越した。マジックショー出演のため、引越しの前にバンクーバー経由でアメリカへ行く事になっていたので、その彼に引越荷物を預かって貰い、かつ、そのお宅で1泊させて貰う事になっていた。初めはバンクーバーへ出るのにバスを使うつもりでいたが、たまたま同じ日に同じ方向へ向かう友人が2人おり、そのどちらかと行くかによってスケジュールが異なってくるため、その詳細を事前に事細かに知らせておいた。長くなるのでメール原文の掲載は控えるが、大体の内容はこんな感じだった。

ちょっと計画を変更しました。
この前話した友人と一緒にバンクーバーへ行くのは無理そうなので、
たぶんバスで行きます。

でも、もう1人、
同じ日にバンクーバーへ向かうかもしれない友人がいるので、
彼女に乗せて行って貰えるかもしれません。
彼女が何日に出掛けるかによって
載せて行って貰えるかどうかが決まります。

もし彼女と一緒に行くなら、
あなたの家の近くに朝8時か9時に着く予定です。
もしこれで大丈夫なようなら、
何処で降ろして貰ったら良いか教えてください。
ハイウェイの近くだと友人にも都合が良いと思います。

もし彼女と一緒に行けない場合は、バスで行きます。
この場合、あなたの家の最寄りの駅に2時半に着く予定です。

複雑な話だが、一応場合分けして書いてあるので、自称「頭の良い」彼なら理解するはずだ。が、このメールに来た返事が、勘違いもいいとこの内容で、ぶっ飛んでしまった。

How are you? Are you enjoying the Convention? I hope so.
(元気?マジックコンベンション、楽しんでるかい?そうだと良いよね)

おいおい、奴の中では、もうマジックのイベントに参加している事になってるよ。いつの間にワシはアメリカへ旅立ったのだ?

I am very disappointed that you might not visit us but that’s OK.
(君が家に来ない事になるかもしれなくてとても残念だけど、
しょうがないね)

しかも彼の家には行かない事になってるよ。一体何処をどのように解釈したのだろう?

If you need me to pick you up,
anywhere in Langley or Surrey or else where, I am very happy to.
If you find out where the bus stops,
just let me know the time and place and I will be there.
(もし何処かで拾って欲しいなら、喜んでするよ。
バス停の場所と、到着時間を教えてください)

う~ん、バス停の場所も到着時間も前のメールにしっかり書いてあるんですけど…。しかも、奴の中では筆者が「引越荷物も預けずにアメリカへ出かけてしまい、奴の家には行かない」事になっているのに、何故ピックアップの必要があると思い込んでいるのか実に不思議である。

こんな彼であるが、自分の事を世界でも屈指の天才だと思い込んでいて、「僕って頭良いと思わない?」と、1度ならず、度々訊かれた事がある。が、前述のような事が何度もあったので、とてもじゃないが「そうだね、ホントにそう思うよ!」とお世辞にさえ言ってあげる事はできなかった。
先日、たまたまこの人の事が話題に上った。「安請け合いをしておきながら、それを全然実行してくれないという人」の話をしていた時に、そう言えばあの人もそうなのよ、という感じで登場したのだ。彼はよく、「人のために尽くす事が僕の幸せだから」と、まるで聖人のような事を言う。確かに、短期的な事なら結構面倒見良く聞いてくれるのだが、長期記憶能力が乏しいのか、長期スパンで頼まれた事はすぐ忘れてしまうようなのだ。

また、彼は同じ話(主に自慢話)を何度も何度もする。「その話は前聞いたよ」と、言いたいと思った事が幾度あるか知れない。しかし、彼は自分の話をするのに夢中なので、その言葉を差し挟む隙さえなかった。自分が面白いと思う話(実のところ、全然面白くない)は全てしなければ気が済まず、しかも長期記憶能力がないため、誰にどの話をしたのか覚えていないから、こういう事になるのだろう。しかも人の話を聞く時はテンで上の空だから困ったものだ。時に、そのつまらん話をするために人の話している途中で割り込んできたりするから始末が悪い。要するに、ホントに自分の事にしか興味がないらしい。なんだか彼は「偽善者」という言葉が実にしっくりくる人だと思えるようになった頃、彼とは一切連絡を取らなくなっていた。

安請け合いする、有言不実行の人々

また、別の人の話だが、自分のエージェントに筆者を紹介してくれると言うので、言われた通り、プロモーションビデオを用意して彼を訪ねた。ところが、エージェントが複数あったので、ビデオをコピーする必要があり、それを彼がやってくれる事になった。親切に写真入りカバーまで作ってくれたのは良いのだが、いかんせん、仕事が遅い。クリスマス直前になって、出来上がったけどどうしよう、とメールが来た。それから送ったとしてもクリスマスシーズンの仕事を得るのは無理だったが、少しでも早い方が良いと思い、取り敢えず、郵送料を持つから直接エージェントに送ってくれるように頼んだ。ところが、年明けに電話をしたら、ビデオはまだ彼の手元にあると言うのだ!でもって、「来週送るから!忙しくて送っている暇がなかった」とのたまうのだ。

お~い、何のためにビデオを作ったんだ?出演の機会があるとしたらクリスマスだぞ?しかも筆者は1月に帰国するって言っておいたのに(恐らく忘れている)、今から送って何の役に立たせるというのだ?親切でやってくれたので、あまり文句も言えないが、何のためにそれをやったのか、根本からわかっていないところがコワイ…。

一旦何かを引き受けたなら、例えボランティアでも相手の役に立つように取り計らうのが務めだろう。それができないなら引き受けてくれない方が余程マシだ。しかも、どんなに忙しくても、封筒に宛先を書いてビデオを入れ、投函するくらいの時間が全くなかったとは思えない。筆者は、時間とは作るものだと思っている。彼には時間がなかったのではなくて、その気がなかったのだ。「時間がない」というのは「その気がない」事を隠すための言い訳でしかない。自分だったら超多忙だったとしても、何とか時間を作ってそれくらいの事はしていると思う。

ま、そんなこんなで、なんでも自分を基準に考えちゃイカンという事を、しっかり学んだのだった。

また、前章の男の話だが、彼は本業が大工で、マジックのコンテストに出演するつもりのカナダ人女性のために、ステージで使う木工品を作ってあげる約束をしたそうだ。ところが、出来上がったのは本番2日前。彼女は練習する事もできず、出場を諦めた。そのためにアメリカへ飛ぶチケットや現地のホテルを予約したのだが、全てが無駄になり、一緒に行くはずだった夫の怒りまで買ったそうだ。これも前例と同じで、何のためにそれをやったのか、根本からわかっていないところがコワイ…。2日前に道具を揃えて、何をしろっていうのだ?この大工だって一応マジシャンなのだ。それくらいわからないはずがないだろうに。

ある人が上手い事を言っていたのだが、「欧米人は自分自身の幸せを一番大切にする人々」だとか。とにかく、他人の事に関しちゃ注意力散漫過ぎる人が多いのだ。この言葉を聞いた時、それまでに起こった数々のこういう事件を思い出し、「あ、あの事ね」と、妙に納得してしまった。また、別の知人曰く、「自分が幸せになって、初めて他人を幸せにできる」そうだ。ストイックな聖人君子はなかなかいるものではないようだ。

約束をほったらかす人々

2002年秋、バンクーバーでマジックショーに出演したのだが、見に来る予定だった人が来られなくなり、招待券が余ってしまった。招待券まで出演料に含めようとするガメツイ主催者を説得して、苦労して余分に手に入れたものである。勿体無いので、誰か行く人はいないかと思って方々に電話した。当時知り合ったばかりのワーキング・ホリデーで来ている日本人の女の子にも連絡した。彼女は話を聞くと喜んだような声色で「行きます、行きます」と言った。1人で来るのはナンだろうから、友達でも誘って、その人数を知らせてくれるように頼んだ。「今晩電話します」と、先方からそう言ったものの、彼女からの連絡は2日たっても一向に来なかった。チケットを無駄にしたくはなかったので、駄目なら駄目で他の人をあたりたい。痺れを切らしてこちらから電話をし、留守電にメッセージを入れても返事もよこさない。やっと本人が捕まったと思ったら、「別の用事ができたから行けない」と言い出した。来られないなら別に良い。なのに何故それを知らせてこないのだ?連絡すると言ってきたのは向こうなのだ。カナダに暫く居て、カナダ人のいい加減気質が彼女にも伝染したのだろうか?まァ、日本に住んでいる若者でもこういうのは結構居るけれど。

ま、そんなこんなで、なんでも自分を基準に考えちゃイカンという事を、またもやしっかり学んだのだった。

自慢しまくる人々

ところで、2003年早々、違う種類の困った人々に出会った。正確に言うと、ニューイヤーズ・パーティーの会場で、つまり会ったのは2002年の暮れから元旦にかけて、である。

1人は、なんたらかんたらというフランス系っぽい名前で(←興味ないので話半分にしか聞いてない)、ちょっと訛りのある話し方をする人好きのしなさそうな年配の方だった。本人曰く、なんたらマジック辞典(←興味ないので話半分にしか聞いてない)という本を書いたそうで、超有名人であり、「生きた伝説」だそうだ。でもって、「この名前をお前は知らないのか?ところでお前は誰だ?何?その名前はどう綴るのだ?」と、エラそ~に言われて、実に感じが悪かった。でもって、頼みもしないのにカナダ紙幣に本人の顔を印刷したベタな名刺と、「過去の栄光」と思われる、古~いパンフレットを無理矢理持たされた。そして「お前は名刺を持っているか?」と訊かれた。本当は持っていたが、持っていない事にしたのは言うまでもない。

こんなエラそ~な彼だったが、人格に問題があるだけあって、誰かから話し掛けられる事はなく、パーティーの間中、1人でぽつねんとしていた。こうはなりたくないものである。

因みに、マジック関連の人名や歴史にかなり詳しい知人に、こういう人知ってる?と訊いてみたが、「そんな奴知らん」の一言で片付けられた。

それから。

中途半端にアマチュアなマジシャンの男でたまにこういうのがいるのだが、とある若者が筆者に向かってコインを使ったすんげ~複雑なハンドリングを見せてきて、「どお?」と訊いてきた(その前に、いつ誰がそんなもの見せてと頼みましたか?)。筆者はこういう類の事にマニアックではないが、中途半端にコインの技法を知っているから、ついコインの行方を目で追ってしまい、それが結構追えてしまったのだ。そんな訳で、フツ~の女の子がよく言うように「不思議!凄いわ!ステキ!」と嘘を言う事もできず、また、マニアのように多少のアラは見過ごした上で、それが本当に素晴らしいのかどうか判別するほどの目を持ち合わせてもおらず、どういう反応をしたら良いのか、実に困ってしまった。筆者は、マジックは不思議さとエンターテイメント性両方を兼ね備えた上で見たいと思っているので、このように技法だけをちゃらちゃら見せられても楽しいとも思わない。彼は一体何を求めてこんなつまらんもの見せて来たのだろうか。他人の気持ちというものをもう少し考えて貰いたいものだ。因みに、同じ男性から「ウォンドの技法(棒が出たり消えたりするマジック)を見せてあげるよ!」と言われた事もある。これは筆者の演技の中にも入っているものなのだが、「僕の方が上手いから見せびらかしたい」とでも思ったのかもしれない。「何でアタシがそんなモノ見なイカンの?」と、こちらが思っている事など全然気にもしていない様子である。

またまた同じ人の話だが、このコインのマニアックな技法を見せ付けてきた後、「僕はマジックサークルの今年のステージコンテストで優勝したんだ!」と訊きもしないのに教えてくれた。そのコンテストのチンケさを知っている筆者は「まー凄いのね!おめでとう!」と嘘を言う事もできず、困ってしまった。こういう場合、嘘でもそう言ってあげるべきだろうか?しかし、それ以前に「自分でそういう話を持ち出して言ってくるなよっ」という気が凄くするので、まァこの時点でかなり白けてしまい、祝いの言葉を述べる気などまるで生まれてこなかったのだ。

大体、自分からして「あそこで入賞したのよ~、アタシ!」と吹聴して回るタイプではないので、こうやってなにやら賞賛を求めて自慢してくる人々の心理が甚だ理解できない。国民性の違いだろうか~、と思ったが、日本人にもこういう人はゴマンといた、そう言えば。因みに彼はキューバ出身で、南米マジック界のチャンピオンだったそうだ。これで南米マジック界のレベルがなんとなくわかってしまった、と言ったら、マジック知識オタクの友人から待ったが入った。南米のマジシャンには凄い人は結構いるのだと。んじゃ~、南米のチャンピオンと言いながら、タダのキューバのチャンピオンなのかもしれない。井の中の蛙傾向の高い北米人にはキューバだろうが南米だろうが、見分けをつける術はないだろうから。何分、キューバは資本主義諸国と国交がないから、キューバのチャンピオンの実力が如何ほどのものかという正確な情報の入手は困難だろう。

彼のステージ演技を見た事があるのだが、手順からして全然駄目だったので、筆者の予想は当たらずとも遠からず、に違いない。なのに、バンクーバーのマジシャン達は彼の事を誉めまくるのだ。こうやって北米のマジシャン達は「spoil」されていくのだ。くわばらくわばら。