韓国
第6節 釜山再び

日本語がどんどん上手くなる

今回、韓国では久しぶりに再会した人が何人かいた。そのうちの1人のTさんは、初めて会った時、日本語は勿論、英語も話せなかったため、我々の会話は韓国語のみでなされた。とはいっても、ホレ、筆者は10年前に韓国語を勉強し始めたものの、実際のところ、始めたのが10年前であったというだけで、10年間真面目に取り組んできたワケではない。そもそも「韓国語ができなきゃ困る」という状況は韓国に住む以外有り得ないワケで、必要性に迫られないがゆえにちっとも上達していないのが現実である。そんなワケで、Tさんとの会話はかなり限定的な内容だった。しかしお互いの言語の色の呼び方を教え合うなどして結構退屈せずに過ごしたのも事実である。その時に筆者が教えた「緑」という言葉が彼女が初めて覚えた日本語だったのだそうな。

それから1年以上経って。ある日聞き覚えのない声のヒトから電話がかかってきた。なんとTさんである。聞き覚えがないのもそのはず、あの時日本語など一言もわからなかったTさんが、日本語をぺらぺら喋っている。すなわち、筆者の「日本語を話せる外国人の知り合い」の認識の中に彼女が入っていなかったと言うだけのことなのだった。

さて、それから更に1年経ったその年の5月、韓国で人に頼まれた仕事をイヤイヤこなしていた筆者の所に、「お久しぶりです」と訪ねてきた女性が。なんとTさんである。かれこれ2年以上ぶりのことで、過去の記憶とすぐにはリンクしなかったが、程なく彼女の名前を言い当てることができた。所々表現はあやしいものの、日本語日常会話は実に問題なくこなす彼女!イヤハヤ。日本語に魅入られた韓国人の知り合いは、大体みんなこんな感じで、実に素早くペラペラになってしまう。それゆえ筆者が韓国語を習得する必要性がますますなくなってしまうのだな…。

Tさんの話を聞いていると、我々が考える以上に、韓国人にとって日本はイケてる国で、日本の芸能人はカッコいいし、日本のドラマは面白いし(韓国の若い人は冬ソナみたいな日常から突拍子もなくかけ離れたドロドロした韓国ドラマには正直ウンザリしているようだ)、とにかくいろんなものが優れている、という認識が強いようだった。日本人がなんとなく欧米人に対して持っているコンプレックスと似ているような気もする。だから日本人が英会話学校に通うのと同じように、韓国人は日本語学校に通う。そして質の良いテキストが結構出回っているため、独学で学んでいる人も多い。そしてついには憧れの国、日本を訪れるのである。筆者としちゃ、日本語なんぞより英語を学んだほうがよっぽど世界が広がると思うのだが…。だって、日本語は日本だけでしか使えないのだから。勿論英語を熱心に学んでいる人も少なくはないハズだけれど。

また、去年知り合ったHさんも、筆者がやってくると知ると、わざわざ連絡をよこして会いに来てくれた。もともとは筆者の通訳ボランティアをしてくれた彼女の妹さんの方と先に知り合いになり、3人で一緒にご飯を食べに行ったりしたのだった。Hさん自身も高校で少し日本語を勉強したらしかったが、去年会った時はまだスムーズに会話が出来るほどではなかった。今回は妹さんは一緒ではないし、筆者の韓国語は彼女の日本語以下のレベルだし、いったいどうなることやら、と心配したのだが…なんと…このヒトも…結構上手くなっている…。妹さんほどではないけど、簡単な単語に置き換えて話せば、ほぼ何もかも理解してくれる。何でも毎朝2時間、日本語コースに通っているそうな。

皆さん、ナゼそんなに日本語が好きなんですか…???

Hさんの目下の目標は「お金を貯め、日本語をもっと上達させて1年後に日本に行く」ことなんだそうな。一体日本に何をしに???我が国にはどんな素晴らしいモノがあるというのでしょう???

ナゾだ…。

ところで、件のTさんと一緒に出かけた先で、共通の知人であるTさんの先輩に出会った。彼は英語が話せるので、筆者に対しては勿論英語で話しかけてきたのだが、ナゼかTさん、それを筆者に向かって日本語に訳してくる。アノ…アナタに訳してもらわなくてもわかるんですけど?Tさんの前では英語で話したことはなく、「英語はわかりますよね?」と訊かれた時に「韓国語よりはね」と言ったのを「韓国語よりはマシ」という程度に受け取ったのか、ハタマタたんなるボケだったのか。

なかなかナゾ多き韓国出張なのであった。

追記:現在Hさんは日本在住。ある年のお正月、突然「聞きなれない声」の女性から電話がかかってくる。なんと更にニホンゴが上手くなったHさんである。で、今日本に来ている、とかのたまう。この後、彼女は日本に於いて、できちゃった結婚をし、今では一児の母となって引き続き日本にお住いなのである。きちゃった結婚って、韓国では余程タブーなのかと思っていたけど、近頃はそうでもないのかな?