カナダ
第3節 アメリカ人とカナダ人

カナダ人とアメリカ人の確執!?

カナダ滞在中に路線バスでアメリカに2回出掛け、行き帰り都合4回の国境越えをした。1度目の往復時、なんだか妙だと思ったのは、バスのドライバーの態度がやけに横柄な事だった。アナウンスはぶっきらぼうで聴き取りにくく、非常に投げやりで、めんど臭そうに喋っている。国境を越える時、バスのトランクに入れた荷物をいちいち取り出して、乗客は自分の荷物と一緒にパスポートコントロールを通るのだが、その荷物を再び積み直す時、上手く入れられなくて困っていたオバさんに向かって、「1つはワシがやってやるが、あとは自分でやりな」などと意地悪を言っていた事もあった。このバスの中ではワシが一番偉いんだぜ、と思っているとしか説明のしようのない威張りぶりであった。

たまたまこういういばりん坊がドライバーだったのかもしれないが、1度目のアメリカ旅行から帰ってから、ふと気付いた。その時のバスのドライバーはきっとアメリカ人で、乗客の殆どがカナダ人なものだから、それでやけに威張っているのだと。案の定、2度目にアメリカに向かった時のドライバーも同じような類だった。

この話を旅先で知り合ったアメリカ人にしたら、「そうだね、アメリカ人はカナダ人の事をバカにする事があるから」と、ちょっとその事を恥じるように言っていた。また、別のアメリカ人は逆に開き直って、そういう態度は誉められるべきではないけど、と前置きをしながら、一体カナダに何があるのだ?悪いけどアメリカの方が優れているのは一目瞭然じゃないかとまくし立てた。それが本当だとしても、強いのは国の力であって、個々人がトラの威を借って威張る理由にはならんだろうに…。

面白いのは、アメリカ人の中には、カナダは「寒い国」「メープルシロップ」「フランス語」などという、まるで日本に対しての「ゲイシャ」「ハラキリ」「サムライ」のようなひどく偏ったステレオタイプなイメージがあるのだ。実際のところ、筆者のいるバンクーバーは海岸沿いのためか、緯度が高いわりには冬はさほど寒くなく、快適な気候である(雨が多いけど)。寒いと言えばアメリカ内陸部の方が余程寒い。また、フランス語を日常的に使っているのはケベック州とオタワの一部のみで、その他の地域のカナダ人はアメリカ人と同じく英語しか喋らない人が多い。また、本物のメープルシロップは高価なので、常備している家庭はあまりないのではないかと思う。

こういった事柄を逆手に取ってコメディに仕立て、アメリカで演じていたカナディアンがいた。カナダ名物の騎馬警官の人形を取り出し、スプレー缶から雪とみなした白い泡を噴出させ、「きゃ~なだ~」と、皮肉っぽく言うのだ。アメリカ人は笑っていたが、二重の意味での皮肉になっている事に気付いていただろうか?

さて、そんなこんなでカナダへ帰ってくる時、すなわち4度目の国境越えで、またまた威張ったバスドライバーに会えるに違いない、と自説の信頼度が上がるのをちょっと楽しみにしていたのだが、この時は様子が違っていた。筆者の使ったアムトラック系列の国境越えのバスには行き先が表示されていない事が多く、いちいちドライバーに確認しなければならないのだが、この時はバスの正面に「バンクーバー行き」と手書きで書かれたカードが見易いように置いてあった。そして、そのバスのドライバーらしき人を見ると、なんだか微妙に様子が違っていた。今までのドライバーにあった「威張りのオーラ」が全然感じられないのだ。しかも彼は乗客の荷物を1つ1つトランクに積み込み、国境越えの時の積み下ろしも全て彼1人でやってくれた。

バスの発車の前には、「国境越えにはIDが必要だが大丈夫か、持っていないなら今すぐバスから降りた方が良いよ」と、冗談めかしながらゆっくり、クリアな発音でアナウンスをしてくれた。国境での手続きについても非常に丁寧に説明をし、乗客の不安を取り払うように努めている様に見えた。

ひょっとしたら彼はカナダ人かもしれない。そう思った矢先、初めてカナダに入国するという日本人の男の子に向かって、「カナダへようこそ!」と言っているのが聞こえた。間違いなかろう。アメリカ人がこんな事を言うはずはない。バンクーバーの終着駅に着いた時も、「バンクーバーへようこそ!」と言いながら、また1つ1つ乗客の荷物をトランクから出していた。

そんなこんなで「国境越えバスのアメリカ人ドライバーが威張っているのはカナダを見下しているから」説は違う方向からも証明されたと言えそうだ。