ソウル・マーケットツアー

筆者は無類のマーケット好きである。特に海外に行くと、まず探すのは、スーパー、或いは食料品店、雑貨屋など、如何にも地元の人が行きそうな店である。偶然、屋外の定期市やフリーマーケットが見つかりでもしたら小躍りモノだ。ま、これは食費を安く浮かせるための一手段でもあるのだが、純粋に、そういう場所を目的も持たずにブラブラ歩くのが好きなのだ。土産もこういう所で買うから、かなり安上がりとなる。

生粋の観光地ベネチアは、土産物屋ばかりで「普通の店」が殆どなく、あまりに退屈だったのでわざわざ電車に乗って隣街のPadovaまで出掛けたほどである(じゃあベネチアなんぞ行くなって?イヤ、別の街で用事を済ませた後、飛行機待ちで仕方なく滞在していただけである)。ベネチアの一般人もやはり島の外へ買い物に行くのだろうか?

元々ありきたりの観光には興味がないし、マーケット巡りの方がその国ならではの発見が色々とあって余程楽しい。イタリアのスーパーには確かにパスタがいっぱい並んでいるし、ドイツでは多種多彩のビールが激安価格で店の一角を占める。日本では一般的でないスグリの実が普通に見られるヨーロッパの夏の食品売り場。一列全部コーンフレークが占める棚もある北米の巨大スーパー!量り売りのセクションで欲しい物を少しずつ買ったり、果物一個だけ買っておやつにしたり(生鮮食品の量り売りは単身者には大変有り難い!)。会員制倉庫型スーパーの面白さは言わずもがな(韓国にもあった)。中国では、リヤカーで道具一式持って来てこさえた簡易食堂が道の端に並ぶ。筆者が初めて行った海外、イギリスでは、体育館のような巨大な建物に小さなブースが立ち並んでいる屋内大型集合市場に何度通った事か!思えばこれが外国の市場徘徊癖の始まりだった。

そういう筆者が韓国へ行って、マーケット巡り以外に何をするというのだ!?思えば、友人知人と過ごす以外はずっと市場を歩き回っていたような気がする。

韓国には、昔日本にもたくさんあったようなゴミゴミした雰囲気の迷路のような巨大市場がたくさんあり、人々の生活に根付いている。ガイドブックにも載っているナンデムン(南大門)・トンデムン(東大門)両市場へは、地方から小売店主が買い出しにやってくるため、問屋街として深夜も営業している店が多い。それに合わせて周りの飲食店も朝方まで営業しており、深夜に観光客がウロウロしていてもたいして危険ではない。韓国人の友人に、「今からナンデムン市場へ行かない?」と夜十時過ぎに誘われた事もある。

両市場は観光名所でもあるので、日本語・英語を話せる人がおり、それほど困らずに買い物を楽しめる(観光客だとぼられる事もあるのだが)。が、普通の市場では勿論、両言語とも通じない。韓国語など「殆どできない」筆者の「会話」といったら、身振り手振り交えてこんな感じである。

「おばちゃん、これいくら?」

「600グラム600Wよ」(唐辛子売り場では何故か600グラムが一単位)

「三単位買うから負けてよ」

「まけらんないね」

「んじゃ、もっと入れて」(身振り手振り)

十分といえば十分だが、値段交渉や品質の質問をするには全くもって不自由だ。もっと韓国語ができればこういった市場巡りはもっと楽しくなるに違いない。

韓国語ができなくてちょっと得をした事もある。トンデムン市場の古本屋街で辞書を買ったのだが、本屋の店主は日本語も英語も殆どわからないようだった。もっと小さいのが良い、安いのはないかと色々注文をつけて見せて貰い、店主が提示した値段より気持ち安めの提案をしたところ、彼は「この値段以上は負けられない」と拒んだ。じゃあ、他の所も見て回ってから考えようと思い、近所にも辞書を売っている店はないか、と訊ねた。当時、筆者には韓国語でそんな高度な文章を作る能力はなかった。結果、まるで通じない。彼は「ない」と言った。そんなハズなかろうよ…。自分の目で探し回るべく、その店を出ようとしたら、彼は慌てて「これ買わないの?」という素振り。戻ってくるかもしれない、と言いたかったが、当然そんな高度な文章は…。わかったわかった、君の言った値段でいいよ、だから買って頂戴と言われ(多分)、めでたく筆者は自分の言い値で辞書を手に入れたのである。

海苔が安いと聞いたので、ヨンドゥンポ(永登浦)市場にも行った。金浦空港へ向かう途中の地下鉄駅から一分程度の所にある、生活市場だ。アーケード付きの道の両脇に商店が並び、道の中央にも露店が所狭しと並ぶ。確かに、そこら中に海苔が!おばちゃん、おじちゃん達はローラーが回転している所にポタポタと塩入り胡麻油が落ちてくる「塩入り胡麻油塗り機」に一枚一枚海苔を通して、その場で袋詰めをしていた。

品質の良し悪しはよくわからないが、やはり安い。百枚入りで3000W!土産用に、とにかく買い込んだ。こういう市場では簡易包装の場合が多いので、後で油が漏れてきて大ごとだったが、味は悪くなく、あげた人にはたっぷり食べて貰えて好評だった。

また、スーパーでは手に入らない屑海苔もあった。傷物を切り刻んで袋詰めにしてあり、全紙海苔の倍の量はあって同じ値段。この品物は長い間、筆者の弁当のおかず代わりになっていた。また、筆者オリジナルのインチキパジョン作りにも一役買っていた(「なんちゃって韓国料理」参照)。

市場巡りの中でも異色だったのは、モラン市場だろうか。漢字では「牡丹市場」と書く。「モ」に力を入れて「も~らん」と発音しないと韓国人にはわかって貰えない。地下鉄8号線の「も~らん」駅で下車、徒歩一分足らずの空き地に、4と9の付く日に立つ定期市だ。青空市場!定期市場!なんと魅惑的な!九日も滞在するというのに予定に組み込まずにいられようか!

売られているのは野菜、乾物、魚介類、衣類、菓子など、何処の市場でも見られる物が大半だが、特筆すべきは「犬」だろうか。いわゆる食用犬がケージに入れられている。皮を剥いで四本足が付いたままの犬形の肉が整然と並べられていたり、それを包丁でぶつ切りにしていたり、何かと目新しい光景が目立つ。ケージの中の犬は中型犬から大型犬まで様々。何を基準に食肉用とされるのかはわからない。すぐ近くで、何処ぞの金融CMに出てくる子犬並みに愛らしい小さな室内犬がペット用に売られていたのが印象的であった。

当然の事ながら売り場の近くには犬肉メニューを提供する食堂がある。が、一人で入るのはためらわれたので試してはいない。犬肉は精力がつく(眉唾)という事で男性に人気らしいが、噂では女性の肌にも良いとか。

肌に良いと言えば、キョンドン(京東)市場で天然素材の粉末パック剤を買った。化粧品が安いミョンドン(明洞)などに、既に調合済みの小分けのパック剤はあるのだが、量り売りの粉末の方が随分安い。ヨモギ、海藻、杏の種、録豆など、実に様々な種類がある。これらをヨーグルト、小麦粉、蜂蜜などと調合して使うのだ。筆者自身、化粧はしないくせに、こういう泥遊びっぽいスキンケアは結構好きなのだ。実のところ、効果の程はよくわからないのだが。

粉末は一抱えもありそうな大きな筒に入っており、透明な蓋がしてあった。それが店先にずらりと並んでいる。種類によって値段が違う上、値札・商品名共に表示がないので、商品情報を得るだけでも大変!ここでも売り場のおばちゃんと怪しい韓国語会話を繰り広げる事になる。四苦八苦の末、四種類の粉末を計一キロほど買う事ができた。ちょっと負けてくんない?と頼んだら、負けられない、と突っぱねられた。もっとしつこく食い下がるか、帰るふりができる段階で言うべきなのだろうか…。本ならともかく、量り売りだとこの辺のタイミングが難しい。が、おばちゃんは、代わりに高麗人参飴をたっぷり一掴み付けてくれた。

どの国へ行っても外せないのはシュポマケッ!大型のシュポマケッは街の中心部では見かけなかったので、宿で同室だった詳しそうな女性旅行者に訊いてみた。

「う~ん、アタシも見た事ないわぁ、古い市場がたくさんあるから、そういうのはないのかもね。」

んな訳ない。前にテジョンに行った時はあったぞ、そういうの。

あ、シュポマケッとは、カタカナ英語で言うところのスーパーマーケットの事である。

韓国人の知人に訊くと、幾つかの場所を教えてくれた。「そういうの」がないなんてとんでもない!二十四時間営業で、北米の super market顔負けに巨大な棚が立ち並び、旧正月前のセール中で、試食コーナーがわんさか!人々は巨大なカートを押して店内を歩き回る。

スーパーの良いところは、あらゆる種類の商品を網羅しており、また、何処に何があるか、わかりやすく配置されている事だ。インスタント食品や菓子類が豊富で、韓国の現代的食生活の傾向を垣間見る事もできる。支払いには言葉は必要ではないし、カードも使える。スリルはないけれど、安心して買い物ができる。

初めに行ったのは、ワールドカップスタジアムの下にある巨大スーパー。名前は忘れたが、フランス系の資本が入っていると聞いた。それにしても何故スタジアムの下に???一説によると、ワールドカップ閉幕後も人の出入りを多くして寂れないようにするためだとか。なるほど。

二軒目は高速バスの発着所から徒歩数分の所にある、Kim’s club。社長は金(キム)さんなのだろうか。地下が食品売り場で、地階より上では日用品を販売していた。

帰国間際に行ったのが、金浦空港の近くの e mart。社長は李(イ)さんだろうか。ここには小さなカゴがなく、少しの買い物なのに巨大なカートを押して歩く事を余儀なくされた。店内が広いのでそれほど苦にならなかったが。

日本でも郊外型の巨大ショッピングセンターが新設されているが、韓国でも土地の広い郊外にこういった店が建設されてきているようだ。ありきたりの観光に飽きたら訪れてみてはいかがだろうか。日本にもあるようなチョコチップクッキーでも、韓国語表記があれば立派なお土産となる事だし、日本にありそでなさそな物がゴマンとあって、見ているだけでも随分楽しい。

★各市場へのアクセス★

ナンデムン市場            4号線 ファヒョン(会賢)駅

トンデムン市場            1・4号線 トンデムン駅

ヨンドゥンポ市場  5号線 ヨンドゥンポシジャン駅

モラン市場                8号・プンダン線 モラン駅

キョンドン市場            1号線 チェギドン(祭基洞)駅

Kim’s club                コソットミノル(高速ターミナル)駅

e mart                        キンポコンハン(金浦空港)駅

stadium market          6号線 ウォルドゥコプ・キョンギジャン駅

(ワールドカップ競技場)