バンクーバーの寿司は美味いか!?

ワーキング・ホリデー時代、二ヶ月だけ寿司屋で巻物職人をしていた。実はそれまでチラシ寿司でさえ作った事もなかったのだが、初日にいきなり「こうやってこうやるのだよ」とちゃちゃっと教えられ、ハイじゃあよろしく、と、いきなりカウンター前の調理台に立たされたのである。こんな俄か仕込みのバイトを使うなんて、ここの寿司屋は三流に違いない、と確信した。一応板前は日本人だったが、事実、使っている材料は冷凍物のみ、少なくとも日本の一流寿司屋に肩を並べられるものではないと思っていた。

ところが。

五年後、二度目のカナダ滞在中、カナダ人に二度ほど寿司をご馳走になった。他の寿司屋で食べるのは初めての事だった。一回目に連れて行かれたのはショッピングモールの中の回転寿司。「寿司をご馳走しよう」と、如何にも羽振りの良い事を言われたので、内心結構期待していたのに、コレである。しかし、日本の回転寿司はこの頃侮れない。相手のカナダ人もここの寿司は結構美味いと太鼓判を押す。一縷の望みは捨てなかった。が、閉店間際だったため、主だったネタは殆ど切れており、回っているのは干からびて不味そうな物ばかり。「注文しても良いよ」と相手が言うので、そうしてみたものの、ネタ切れのためロクな物は残っていないし、サービスも粗悪で(店員は中国人。こりゃダメだ…)、頼んだ物がなかなかやってこない。やっと出てきた「てんぷら巻き」は、中身が何なのかよくわからない代物で、脂っこくて、とにかく不味い。なのにカナダ人と来たら「カナダの寿司は日本のと違うって聞いた事があるけど、これなんかもそう?でも結構美味いよね」などと本気の顔で言ってくるから、ますますゲンナリしてきた。

二回目は、ランチタイム食べ放題の寿司屋で、店の名はれっきとした日本語表記、しかし、従業員は全員中国人であった(こりゃダメだ)。今度はネタ切れという事もなく、頼んだ物が全て出てきたものの、寿司一つ一つの小さい事!ミニチュア料理ですか、これは!?てんぷらは相変わらずベトッとしているし、鮭皮の香ばしさが売り物のBCロールも焼き加減が甘い。しかし、相手のカナダ人は「う~ん、美味いね!」と、かなりご満悦のよう。相手の奢りなので下手な事は言えなかった…。

そんなこんなで、それまで三流だと思っていたバイト先の寿司屋が、まァ、相変わらず三流には違いないのだが、バンクーバーではマシな部類に入る事実に気が付いたのだった。もっとも、奢ってくれた地元民がこの程度のモノで満足しているようじゃァ、これ以上のレベルを望むのも難しいと言うものだ。

、バンクーバーにフリーツアーで遊びに来た友人が、ツアーのフリーオプションである「寿司ディナー」を食べてきて一言、「見事最悪」だったそうだ。筆者は実際には食べていないので、何がどう不味かったのかわからないが、フリーの企画なんてそんなものである。大体、カナダに来てまで何故日本食を食べさせようとするのか、旅行社の考える事はよくわからん。カナダの方がネタが新鮮で美味しい、ならともかく。しかし、そんな風に勘違いしている人は多いらしい。

そう言えば、寿司屋でバイトしていた時分、ワーキング・ホリデーか留学でこちらに住んでいそうな日本人の男の子と、彼を訪ねて日本からやって来たと思われる友人らしき人が二、三人、カウンターの前に陣取っていた事がある。「美味しい~!」とばくばく寿司をがっつく友人達に向かって、長期滞在者らしきその男の子は、実に得意げにこう言った。「そりゃそうさ、だって、ネタが違うんだもん!」…お~い、どのネタの話ですか~???ウチのネタは殆ど冷凍なんですけど~?と、勿論そんな事は言いはしなかったものの、彼の知ったかぶりのバカさ加減はかなりの爆笑物だった。

バンクーバーは日本人在住者が多いせいか、寿司屋の数もザラじゃない。ひょっとしたら、日本国内の同じような市街地よりも密度は高いかもしれない。しかし、その半分以上はファストフード感覚なものだ。また、怪しい巻き寿司の数々が余程ポピュラーなこの地では、高い技術が必要な「握り」の腕はそれほど必要とされないのかもしれない。作るのは、技術的にかなり怪しいその他のアジア人でも、ワーキング・ホリデーのインチキ職人でも通用してしまう。何しろ「型抜き寿司セット」で作った寿司でも満足してしまうようなレベルの客層なのだから。ともかく、北米生まれのゲテモノ寿司目当てでなく、「日本らしい美味しい寿司」を堪能したいなら、日本で食べる事をお薦めする。

しかし、ひょっとしたら、筆者が知らないだけで、バンクーバーの何処かに超一流の寿司屋が存在するのかもしれない。今度カナダに行く事があったら、そんな店を探してみるのも面白いだろう。