カナダ
第4節 バンクーバー地域情報

日本人の旅行

宿泊付のフリーツアーで、日本の友人らがバンクーバーへやって来た時の事。彼女らは1人であちらこちらの外国に出掛けた事があり、現地での長めの滞在も経験している。英語が達者なので、交通手段や街の位置関係の情報さえあれば、何処へだって1人で行く事ができる。

ところが。

ツアーには初日の半日観光が付いていた。観光の最中、ツアーガイドはしきりに有料のオプショナルツアーを薦めてきたり、恐らく業務提携があるのであろうレストランに彼らを連れて行き、食事をさせたりする。その時にツアーガイドがしたという話の内容に筆者は面食らった。

「ビクトリアへのオプショナルツアーは160ドルです。ツアー以外の方法でお出掛けになるのは難しいと思います。」

嘘こけ。

ビクトリアというのは、バンクーバーの沖合のバンクーバー・アイランドにあるBC州の州都であり、こぢんまりとした美しい街である。狭い地域に見所が集中しているため、むしろバンクーバーより観光に適しているかもしれない。ここへはバンクーバーからフェリーとバスを乗り継いで片道3時間あまりの行程である。旅慣れない人ならともかく、彼女ら並みの適応力のある人なら、どういう交通手段を使うのかという最低限の情報さえあれば、ここへ出掛けるのはなんという事もない。交通費で言うならば、最低で往復30ドル、ちょっと便利な長距離バスを使っても50ドル少々で済む。長距離バスの乗り場、予約用電話番号さえわかっていれば、「お出掛けになるのは難しい」事など有り得ない。オプショナルツアー料金には有名な庭園の入場料と食事代が含まれていたそうだが、それにしたってぼったくりもいいところだ。

勿論、ツアーガイドは彼らの商品であるツアーを売り込む任務がある。その売り上げを減らす可能性のある、旅行者にとっては有り難い「お得で便利な情報」を口にする訳にはいかないのだろう。また、旅慣れない人にとっては多少値段が張ろうと効率良く観光ポイントに連れて行ってくれる旅行社任せのツアーの方が「お得で便利な情報」であるというのも事実だ。それにしたって、「これ以外の方法で出掛けるのは難しい」というのははっきり言って嘘である。嘘をついてまで商品を売り込むのかね…(売り込むんだろうな)。はたまた彼らは長距離バスの存在を知らないのだろうか…(これは案外そうかもしれない)。

バンクーバーの観光にしても、この地域の地図とバスの路線図、1日パスや回数券を買う場所、バスの乗り方など、ごくごく簡単な情報さえあれば、安い値段でかなり自由に動き回れるのだ。しかし、当たり前と言えば当たり前だが、旅行社側はこういった情報は一切教えてくれなかったそうだ。まァ、こういう情報を元に自分で動き回れる人なら、旅行社主催のツアーなどに参加せず、初めから自由旅行で来るのだろう。だから仮に「情報」をセットにした商品を作ったとしても、売れ行きは芳しくはないだろうし、「旅行社としては」利幅が少ないのでメリットは全然ないに違いない。

しかし、筆者の友人にしても、滞在期間がせいぜい3、4日しかないのだ。日本の企業に勤める以上、これ以上長く滞在するのは難しい。彼女達にとっては、全て自分で手配するよりも、ホテル宿泊付きの短期格安ツアーはお手軽だし、利用し甲斐があるはずだ。それに「情報」を上乗せした、もっと自由旅行に近い形の企画は「客の立場」からすれば悪い話ではない。もっとも、「お客様」などと言って表面上は立てているように取り繕っても、こういった企画が存在しない事自体、「客の立場」を本当に考えている旅行社など存在しない証明なのかもしれない。

筆者がカナダにいる期間に、何組か友人が訪ねて来てくれたが、短期間の滞在中、目の回るような忙しいツアーに振り回されて、気の毒な事この上なかった。ある友人は「カナダに来る事などもうないだろうから」と、筆者がやめとけと言うのも聞かず、数日間に東部カナダから西海岸へ抜け、いくつもの違う都市を回るというクレイジーなツアーに申し込み、(バンクーバーには24時間滞在しなかった!)途中で体調を崩してしまった。この時同行していた別の友人とは、これが原因で仲が気まずくなってしまったそうである。全く、踏んだり蹴ったり。こんなツアーを選んだ友人も愚かだが、提供する方もする方だ。もっとも、日本の旅行社主催の外国旅行のツアーはこういったものが主流なのだろうけれど。

カナダ人の知人に、日本から友人が遊びに来るという話をすると、その滞在期間の短さに目を丸くする。「高い飛行機代を払って、長い時間をかけて来て、たったそれだけしかいないの?何故?僕だったら時差ぼけ解消するまで3日は何もせずにいるね」な~んて彼らは言うけれど、日本でまともに就職している人に、そんな贅沢はまず無理だ。日本人の旅行者はその3日をとにかく動き回って過ごさなければならないのだ。

西洋と東洋では休暇や余暇に関する考え方がまるで違う。現在の日本で西洋人と同じような休暇の取り方をしたら、多分日本は滅びてしまうに違いない。従って、こういった状況は、ここしばらくは変わらないだろう。しかし折角「高い飛行機代を払って、長い時間をかけて」やって来るのだ。無闇に観光ポイントを回るだけではなく、筆者の友人達にはもっとのんびりゆっくり、このバンクーバーで過ごしていって貰えれば良いのに、と思った。