韓国語ではオンニ

韓国語教室に通う生徒さんの紹介で、日本語学科の韓国人学生とメールで文通を始めたのだが、何かと忙しいらしくてあまり返事をくれない。一日ワンフレーズでもいいから韓国語で何か書き送ってくれると良いのだが…。なまじ日本語がわかるから、日本語で書かなきゃ!という気負いがあり、なかなか返事を書く気にならないのかもしれない。事実、筆者自身も韓国語の文章を書く時は相当労力を要する。が、幸い、と言うか、不幸にして、と言うか、当時あまりにも会社で暇だったので、メールを書くのは専ら就業時間内という状況ゆえ、こちら毎日スタンバイ状態だったのだが。

そんなこんなで、ここは一つ、日本語のわからない韓国人に韓国語メールを出してみようと思った。ターゲットはカナダで知り合った友人で、普段は英語でコミュニケーションをとっている。韓国のお宅に泊めて貰った事もあるのだが、その時の筆者の韓国語会話能力たるや、ないに等しく、ご両親とまともに話す事すらできなかったから、ハングルタイピングまでマスターしていきなりメールを送ったらこりゃ驚くぞぉ!!!

案の定、彼女は「凄いわ!驚いたわ!一生懸命韓国語を勉強してくれて嬉しいわ!」と、手放しの喜び様(手放しで喜び易いお手軽な性格なのかも…)。その上、筆者の書いた文章の間違いを丁寧に直してくれたり。

ところで、彼女の返事の中にオヤ?と思わせる表現が。彼女は筆者の事を「オンニ」と呼んでいるのだ。英語で会話する時は勿論、お互いファーストネームで呼び合っている。が、筆者の方が年上だから、韓国語で話す場合は年上の女性に対して使うこの呼称の方が妥当だ、という訳だ。生真面目な彼女らしい所業…。

韓国語ネイティブではない筆者としては、無理矢理日本語訳した「お姉さん」という言葉のイメージがあるから、なんだかよそよそしくなったような気がするが、彼女からするとこの方が親しみがこもっていると言うのである。事実、日本語のできる年上の女性に、「オンニと呼んでくれると嬉しいです」と言われた事がある。我々からすると実に奇異な感じがするが、「オッパ」「オンニ」は韓国人にとっては我々の想像以上に親しみ深い呼び方のようだ。このように呼びたいと相手が言ってきたら、お互いの距離が縮まった証拠かもしれない。

ところで、カナダの英語学校でEnglish onlyと呪文のように唱えられ、日本人同士でも英会話するように仕向けられた環境で知り合った日本人とは、その呪縛から解かれた後、即ち日本語で会話する時でも、英会話の名残で年上だろうと年下だろうとファーストネームで呼び合っている。勿論タメ口だ。が、韓国人はやはり「オンニ」「オッパ」などに戻しているらしい。それどころか外国人の友人を第三者として会話の中で呼ぶ時さえもこの法則にのっとるようだ。

知人がNYに留学中、非常に仲の良かった年下の韓国人の友人同士が韓国語で会話している時、自分ら日本人クラスメイトの事を「○○アー」と言っているのが聞こえたので、「『○○アー』だって!」と、日本人同士で騒いでいた。親しみを込めた友人への呼びかけには名前の後に「アー」もしくは「ヤー」を付けるのだが、年上の人は「オンニ」「オッパ」を付けるのが鉄則だ。その事を彼女らに咎められたような気になった韓国人達は、慌てて「○○オンニ」と言い直したそうだ。勿論、日本人である彼女達には咎め立てするつもりなど毛頭なく、ただ韓国語が聴き取れたので盛り上がっていただけなのだが。

彼ら韓国人は、英語では同等の口を聞いていたとしても、韓国語のタメ口、パンマルも年上にはご法度なのかもしれない。話す言語によって上下関係の気の持ちようまで切り替えているようで、なんだか不思議である。

これに因んでもう一つ面白い発見が。

ヨーロッパ言語の中には親称と敬称がある場合が多い。ドイツ語ならduとSie、スペイン語ならtuとustedで、便宜上、「君」「あなた」と訳される。が、この使い分けは目上・目下が基準となるのではなく、相手との親しさの度合いによって変化するという。ドイツ語にはduzenという動詞があって、この動詞を使って「今後はduで呼び合いましょう」と宣言する瞬間が存在するらしい。なんだか几帳面なドイツ人らしい、と感じ入ってしまった。他のヨーロッパ言語にもこのような動詞はあるらしいが。