ハングル英語、大解析

筆者のように、まず初めに日本や韓国以外で韓国人の知人ができるケースは意外と多いようだ。この場合、韓国を訪れた事もないのに何かしら韓国文化に触れた気になってしまうのだが、ココでちょっとした勘違いが生じる事がある。

オーストラリアでワーキング・ホリデーをしてきた後輩が韓国へ行った折、「英語が通じない!」と悲鳴をあげていた。それまでに知り合った韓国人全てがそこそこ上手に英語を話すものだから、殆ど全ての韓国国民がオランダ人並に英語を解すると錯覚していたのだろう。しかし、本国での状況は、日本とどっこいどっこいである。ホテルや空港、免税店など、如何にも観光客が集まりそうな場所なら英語は(有り難い事に日本語も!)通じるが、学校以外で英語を習った訳でもない韓国一般市民が、べらべら喋れる事などまずない。大学生も、西洋言語専攻でもなければ、日本の大学生並にお粗末な実力だ。

カナダで知り合った日本人はワーキング・ホリデーなどのお遊び感覚の人が多かったが、韓国人の場合は将来を見据えて真剣に英語を学びに来ている人が殆どだった。だから、より高いレベルのクラスの方に韓国人が偏っていた(筆者のいた学校があまりレベルの高くない田舎の学校だったという事もあるだろうが。NYなんぞへ行くと、西洋人学生が多く、レベルの差は韓国人どこの騒ぎじゃないらしい)。そんな状況も手伝ってか、韓国人学生の中には「日本人って英語が下手」と匂わす発言をする人が結構いた。特に発音が拙いという事らしい。

韓国語の方が母音・子音の数が多く、また、ハングルには、一部、子音のみを表記する方法があるため、「日本語でするよりは」英語らしい発音を書き表す事ができる…場合もある。

ソウルの観光ガイドのオバちゃんが、「ハングルは世界中の全ての言語を正確に書き表す事ができるのです」と、実に誇らしげに謳っていたのを聞いた事がある。が、筆者に言わせりゃ、これはハッタリも甚だしい。もしオバちゃんの言う事が真実だとしたら、韓国人の英語の発音はもっと上手いはずだ…。

そうなのだ、勿論人にもよるが、韓国訛りの酷い英語は聞けたものじゃない。

韓国語には日本語にない曖昧母音がいくつかあって、似た音の英語の母音にそれらを当てて外来語の発音としている。いわゆる日本のカタカナ英語と同じだ。が、これは「英語」として発音される場合に訛りとして影響する。

確かに、韓国人の発する英語の母音は、五母音しかない日本語のカタカナ英語よりは近い音になっているのだろうが、それでも英語の発音と全く同じではない。英語のネイティブスピーカーならば「近い音」として聴き分けるのかもしれないが、脳が五つの母音しか判別しないようにできている日本人にとっては、「近い音」への近似が極端な事になり、聴き分けに困難を伴うのである。カタカナ英語で「あ」と表記されるモノが「ハングル英語」で話されると「え」「お」などと聞こえてしまうのだ。例えばこのように聞こえる。

「ロブ」「ポス」「デンシン」「メジッ」

元の単語はlove, bus, dancing, magicである。

子音の発音も甚だ怪しい場合がある。韓国語は清音(文法解説用語で「平音」とされる)の文字が語中に入ると濁音化する。というよりは、元々濁音と清音の中間のような音が基本で、語頭に来ると清音に近く、語中に来ると濁音に近い発音になるらしい。例えば、元大統領「金大中」氏は、名前のみなら「テジュン」だが、姓名を続けて読むと「キムデジュン」になるのである(この傾向は日本語にも時々見られる。例えば「汁(しる)」→「豚汁(とんじる)」 「クマ」→「ツキノワグマ」)。

最も珍妙に聞こえるのが「p」の音だろうか。英語で「b」「f」と書き表すものは、ことごとく「p」と発音されてしまうのだ。有名なのは「ぷれんどぅ(friend)」「こぴ(coffee)」などだろうか。日本語の場合「f」を「h」の音で代用しているから、ひょっとしたら、外国人にはこれも奇妙に聞こえているのかもしれない。

「こぴ」の方は、語中でも語頭でも発音の変わらない「激音」を表す文字が使われる。さもないと「こび」となって、ますますヘンだ(「こぴ」も十分ヘンだが)。即ち、ハングルではcoffeeを発音通り正確に書き表すのは不可能なのだ!!(まァ、日本語もそうだけど。が、外来語表記用に五十音表にない「ヴ」なんて文字を作っちゃうくらいだから韓国語よりむしろ柔軟性があると言えそうだ。)

「ざ行音」が「じゃ行音」、「つ」が「ちゅ」になるのも有名だ。韓国の航空会社を利用し、降り際に「有り難うごじゃいました」と言われ、思わずぷぷっと吹き出してしまった方は多いのではないだろうか。また、カツオ出汁を効かせた「カツオうどん」なるカップ麺があるらしいのだが、それは勿論「かちゅおうどん」と表記されている(「つ」を表す文字がないのだ)。一つ、二つ、と数えるのが「ひとちゅ、ふたちゅ」となるのもなんだかカワイイ。「全然」は「ぢぇんぢぇん」となる(「ざ・ず・ぜ・ぞ」を表す文字がないのだ!)。英語の例で言うと、VISAは「びじゃ」、thousandは「さうじゃんどぅ」となる。

また、先に子音のみを表記する方法があると書いたが、これにも限界がある。「d」「s」「ch」などが語末にくる時は、母音を付けざるを得ない。これらの音を表す文字が単語の末尾に付く時は、日本語で言うところの「っ」として発音される事になっているからだ(正確には「っ+t」。語末で舌の位置が「t」を発音する位置に来るが、発声しない)。従って、語末に「i」「iとuの中間母音」などを伴って、例えば、cardは「かどぅ」、fishは「ぴっし」という感じに発音される。

一方、韓国人が得意な事に、「n」「ng」の使い分けがある。日本語では「ん」という文字で一括りにしているが、実は日本人はこの文字に対して「m」「n」「ng」という三種類の発音を使っている。文字を使い分けていないため、無意識のうちに発音する事になり、従って、日本人がこれらの音を聴き分け、使い分けるのは非常に難しい。

厄介な事に、韓国人の名前には「n」「ng」の音が非常に多い。どちらの音もない名前の方が珍しいくらいだ。一度聞いただけではよくわからないので、ゆっくり発音して貰い、口の形をよく観察しなければならない。間違えて発音しようものなら、一同に揃いも揃って「ぎゃはは」と笑われる事もある。きっと韓国人が「有り難うごじゃいます」と言うくらい可笑しい事に違いない。しちゅれいしましたね。

ところで、韓国人の名前は外国人には覚えにくいためか、英語のニックネームを持っている人が結構いる。カナダの学校のクラスメイトで「Charming」というぶっ飛んだ名前の子がいたのだが、日本人が「ちゃーみんぐ」とカタカナ英語で発音しようものなら「やめてよ、『ぐ』じゃないわ、『ng』よ!」と訂正していたものである。

筆者は彼女に「アナタの英語の発音は日本人にしては上手ね!」と誉められた?事がある。喜んで良いものやら。まァ、彼女の英語の発音も韓国訛りが少なくてわりと上手だったのだけど、「アナタの英語も韓国人にしては上手よ!」と言って返すほど筆者は神経が太くなかった(そしてこういう所にコソコソと書き留める日本人気質)。

 韓国語超初心者のクセして、いけしゃあしゃあとこんな分析をお披露目するくらいだから、筆者の「ハングル英語ヒアリング能力」は大分高くなっている。まるで韓国語ネイティブのように、彼らとは実にスムーズに英語でコミュニケーションが取れるのだ(筆者の発音はそう拙くないと韓国人からお墨付きを戴いた事だから、彼らの方では聴き取りに問題ない、と)。そのうち韓国語訛りの英語を話せるようにでもなるかもしれない。

ところで、韓国語の語彙が少なくても読んで楽しめるのは映画のポスター。人名が主だが、「ハングル英語」の宝庫である。この前韓国に行った時にまじまじと眺めていたら、Kevin Baconが「けびん・ぺこん」となっていた。
ぺぺぺ、ぺこんですか!?(姓名を続けて読んだら「ベこん」かな)