ドイツ
第3節 ドイツ就職活動の旅

シュトゥットガルトの巡り逢い

地名が置き換わるだけで、なんだかフツーの響きになってしまう。それもそのはず、というワケでもないのだが、そもそもそこでほぼ1年振りにめぐり逢った2人は、シュトゥットガルト自体には何の興味もなかった。それなのに何故その地が再会の場所に選ばれたかと言うと、そこがたまたま2人の滞在していた土地の中間地点だったから、というだけのことである。

筆者の友人、Sは、現在カナダに住んでいる。実は10半ばから11月初めにかけて、日本に一時帰国していたらしい。それは「ただのんびりするため」のお忍び旅行だったそうだから、筆者がそれを知る由もなかったのだが、別の友人経由で漏れ聞くところとなっていた。しかし、悲しいかな、彼女の日本滞在最終日が筆者のドイツからの帰国日であった。会えるワケがない。

ところが。

2週間と置かずして筆者が再びドイツへ向けて出発することとなったその前々日、彼女からメールが届いた。なんと、筆者のドイツ滞在期間中、彼女もヨーロッパへ行くと言うのである。しかし彼女の旅先はスイス・フランス。まー会うことはないだろうねー、と言っていたものの、「私はミュンヘンの近くにしばらくいるから、ミュンヘンまで来てくれたら会えるかもよ~」と、実際に会えることは殆ど期待せずに情報を流しておいた。

さて、ドイツにやって来た筆者は、工場地帯のど真ん中にある無駄にオシャレなビジネスホテルに閉じ込められていた。ビジネスホテルだけあって、インターネット環境は抜群に整備されており、でもってヒマでもあったため、筆者はヨーロッパへやってくる直前のSとヘビーな頻度でメールのやり取りをしていた。

そんな中で、「面白いブログがあるから読んでみ~」とSに教えられたそのサイトに「パリ症候群」なる言葉を発見。なんでも、「憧れの都、パリ」に過大な期待を寄せて訪れた日本人観光客が、理想と現実の余りのギャップに失望し、セラピーを必要とするまで(!)に心的ダメージを受けるという現象のことらしい。パリの現実とは、例えば、旅行者に不親切な市民、道路に散らばる犬の糞、飲食店でのサービスの悪さ、etc…

ワシなんか、パリへ行く前から(そして一生行く予定もないのに)フランス人のテキトーさにアテられて、既にパリ症候群だぞ!!!!!!もっとも、筆者はパリに憧れを持ったことすらないのだが。せいぜいアンタは覚悟していきなさい、と、ヨーロッパ旅行自体が初めてのSに釘を刺した。仕事で何度かパリを訪れているダンナにも、散々言い含められていたらしいが。

そんなことはともかく。

状況はこの後、二転三転する。

今回のSの旅行は、ダンナの出張に便乗するもので、スイスのチューリッヒから入り、ダンナの仕事のためにスイス国境近くのフランスの田舎町に数日滞在、その後パリやアルザス地方を巡る予定のようだった。

で、筆者がドイツにいるという話をダンナにふと漏らしたところ、「えっ、ドイツのどこ、いつまで?ミュンヘン!?じゃあ、(自分たちの滞在先から)どれくらいかかるのか調べておいて!」と言ったそうな。むしろダンナの方が、会いに来る気、満々?(一応、ダンナとも顔見知り)が、日程から言ってダンナとSと、揃って来てもらうのはムリそう。彼らの滞在先からミュンヘンまでもいささか距離がある。しからば、ダンナが仕事をしている間に、双方の中間地点(=シュトットガルト)で会うのはどうだろう、と筆者が提案した。しかし、どういう訳か彼女はシュトゥットガルトまで出てくるのにかかる時間を「8時間」と誤って計算し、且つ、初めてのヨーロッパだから不安もあるということで、一旦は諦めた。

「そうかー、不安があるなら仕方ないね。でもシュトゥットガルトまでは4時間くらいのはずよ」と彼女の心変わりを期待するワケでもなくお知らせしたら。

筆者が無駄にオシャレなビジネスホテルからチェックアウトする前日、且つ彼女がヨーロッパへ出発する直前に連絡が。

「あら~、ほんとだ!4時間ぐらいだ。なら、行けるかも!」

取り敢えず、ヨーロッパに着いたら連絡する、というので、ホテルをチェックアウト後にお世話になる知人の携帯番号を知らせておいた。

知人の協力もあってなんとか連絡が取れ、我々はその翌日、各々の滞在地から一路シュトゥットガルトを目指すことと相成った。現代を生きる日本人としては恐ろしく稀有な状況だがお互い、携帯電話を持っていないので、電車の到着時間を合わせ、わかりやすい待ち合わせ場所を決めておく。そして携帯電話も持たない我々は、「奇跡的」にめぐり逢う!!!!!…ていうか、ちょっと前まではこういう状況の方がフツーだったんだよね。それでも、Eメールや「他人の携帯電話」を駆使して、携帯電話を持たない者同士が、外国の旅行先で会う約束を「前日に」取り付けるなど、それらのツールがなかった時代からしたら殆ど奇跡のようだ。ビバ、文明。

さて、ここまでは一応、起こるべくして起こった「奇跡」であるが。この先には更に予想外の出会いが待っていた。

駅で邂逅を果たした我々は、ホテルへ向かうべく、駅前から伸びる歩行者天国を歩いていた。

すると。

誰かが筆者の名前を呼ぶのが聞こえた。しかし、筆者の名前は巷にありふれた、ごくごく一般的な名前である。そしてこの土地に筆者を知るヒトがそうそういるとは思えない(ま、数人いるこたいるのだが)。だから「全然知らない日本人観光客が自分と同じ名前の別の日本人を呼んでいるに違いない」と意にも介さなかったのだが。確か、Sが「あのヒトがアンタの事を呼んでいるようだ」と教えてくれたのだと思う。Sが示す先を見ると。

先月、この街で会ったばかりの知人Jが~~~~~~~!!!!!!!

Jは先月までこの街にある劇場のバラエティ・ショーのパフォーマーとして働いていたのだが、今は別の街にいるはずだった。しかし、たまたま休暇で3日間だけここにやって来たのだとか。人通りの多い歩行者天国。その中で彼女が筆者を見つけたもの奇跡なら、たまたま同じ時間にその通りを歩いていたのも奇跡だぞ!そして、Jの薦めにより、我々2人は彼女が先月働いていた劇場にタダで潜り込み、その晩のショーを堪能する事が出来たのである(ものスゴい眠気に襲われて、筆者は後半舟を漕いでいたが)。そもそも会う事自体が目的で、観光にも買い物にも興味のない我々は「食べる事」くらいしか予定しておらず、程よい暇つぶしとなった。

ところで、Sは筆者の書くエッセイの熱心な読者であり、筆者の知らない間に結構つぶさに目を通しているらしい。「ところで、さっきの人って、以前エッセイに書いてあったヒトではないよね?」エッセイに書かれた人物とJの出身国が同じと見るや、Sはそう訊ねた。何を隠そう、実はその通りである。Jと北海道の電機街で3時間以上かかってビデオカメを買った事件を延々と書きしたためたものがあるのだが、それを読んだ人は「こんな人と付き合うのは御免だ」と思うようだ。しかし…なんとも憎めない「良い性格」をしているのだ、このJという人は。確かに一緒に買い物に行くのは2度と御免だが。

因みに、先月彼女のアパートを訪れた筆者に、その時買ったカメラを見せて「あのカメラよ~。実はあんまり使ってないの」とのたまうJ。

あんなに苦労して買ったのに…llllll(-_-;)llllll でもって、更に駄目押し。「このカメラを買う時、背の小さい男が助けてくれたわよね。」えっと~。確かに背の低い男性もいましたが、付きっ切りでお世話して差し上げたのは、むしろこのワタシです… (;´Д`)姐さん、ホントに「良い性格」してるなぁ…。

それにしても、初めてのヨーロッパ旅行、しかもフランス語圏を主に巡る目的で来ていたSの、観光?初日が何故かドイツ…。が、ドイツは観光地としては地味なものの、パリと違って(行ったワケでないので実態は知らないが、コレまでにコミュニケーションをとったことのあるフランス人の言動から察するに、想像に難くない)人々は親切だし、彼女の住む北米と比べても料理はお洒落で味が良い(らしい)。その上ドイツの誇るハイレベルなバラエティーショーをタダで見られ、Sは図らずして、ドイツに対して良い印象を持ったに違いない。

なにしろ、カナダを発つ直前までドイツに来る予定などまるでなく、というかドイツに興味を持ったこともなかったので、ドイツ語の1人称代名詞どころかYes・Noすら知らなかったのだ。(それでも、S、人々の会話から「Ja(ヤー)」がYesであることを察知する)まー、筆者がフランスに全然興味がないのと同じことであるが。

ナンにせよ、結果オーライ。

めでたし、めでたし。